近年、投資信託を資産運用手段として購入する人も増えています。
しかし、いざ相続が発生した場合、相続人の間で投資信託が相続財産だと認識されていないケースが見られます。
また、相続をおこなう際にもどのように手続きを進めればいいのかわからなかったりするケースもあるようです。
この記事では投資信託が相続できるのか、相続手続きをおこなう流れ、そして注意点について詳しく解説します。
- 相続税の課税対象となる相続財産で納税する必要がある
- 亡くなった方の財産に投資信託があった場合の相続手続きの流れ
- 投資信託は相続の計算が複雑なので相続に詳しい弁護士などの専門家に相談する
投資信託は相続可能で遺産分割の対象!遺産分割が終わるまでは現金化はできない
はじめに、投資信託は相続できるのか、相続財産として遺産分割されるのかについて解説します。
また、投資信託の特徴と他の金融相続財産との違いを簡単に解説します。
1.投資信託は相続財産(相続税の課税対象となる財産)となる
投資信託は、相続税の課税対象となる相続財産です。
よって、投資信託を所有していた人が亡くなった場合、相続人は投資信託を相続し、その価値を評価して相続税を計上、納税する必要があります。
2.投資信託は「遺産分割」の対象となる
結論からいえば投資信託は、現在は「不可分債権」とみなされています。
そのため「遺産分割」の対象とされます。
被相続人の財産 | 預貯金 | 現金 (タンス預金など) |
投資信託 (投資信託の受益権) |
---|---|---|---|
可分債権or不可分債権 | 可分債権 | 可分債権 | 不可分債権(平成26年2月25日最高裁判決による) |
当然分割or遺産分割 | 当然分割 | 遺産分割 | 遺産分割 |
遺産分割の対象かどうか | 対象にならない | 対象になる | 対象になる |
可分債権とは、文字どおり「分けることができる債権」です。
たとえば被相続人の財産のうち預貯金など「誰が見てもすみやかに、明らかに分割できるもの」は可分債権であり、遺産分割の対象からは除かれます。
仮に、亡くなった方の預貯金が300万円あり、相続人が3人いたとします。
その場合は、相続人は一人当たり100万円の預貯金債権(預貯金の預けられている銀行などに対して「払い戻しをお願いします」と依頼する権利)を持っています。
このように、預貯金は「当然分割」の対象となります。
【豆知識】「遺産分割」と「当然分割」の違い
当然分割とは、遺産分割の対象にならない資産で自動的に相続人の財産として分割されるものを指します。
たとえば、被相続人に債務があった場合はこれにあたります。
一方、自宅にタンス預金されていた被相続人の「現金」は、「当然分割」の対象ではなく、遺産分割の対象になるとされています。
では、投資信託はどうなのでしょうか。
投資信託は、お金を複数の投資家から集め、その資金を専門家が運用する金融商品を指します。
投資信託を購入すると、購入した人はその投資信託の運用成果に応じて利益を得る権利(受益権)を取得します(この権利をもつ人を「受益者」といいます)。
この「投資信託などの受益権」は、従来は「可分債権」なのか「不可分債権」なのか、下級審の判断により異なっていました。
しかし最近の最高裁判決(平成26年2月25日)により、投資信託(国債、株式、類型の商品など)については、最高裁は性質上不可分債権となると判断しています。
よって現在は、投資信託は一般的な預貯金などの可分債権に該当せず、相続開始と同時に遺言書や遺産分割協議などで帰属や配分を決定するものとなっています。
3.投資信託を遺産分割しない場合は相続人全員が準共有状態
投資信託は遺産分割の対象のため、そのままの状態では、相続人は現金化したり、名義を勝手に書き換えたりすることはできません。
亡くなった方の遺産に投資信託がある場合、遺産分割が終わるまで、その投資信託は相続人全員が準共有状態となります。
準共有状態の投資信託(株や債権など類するもの含む)について、各共有者はそれらを勝手に売却することはできません。
たとえば200口の投資信託を相続人AとBの二人で「準共有」するとき、100口ずつ「所有」しているということではなく、それぞれ200口の2分の1ずつの「持分」がある、ということになります。
4.投資信託の価額算定は他の金融資産より複雑
投資信託は、その価額が刻々と変動します。
また投資信託は株式のように単一の銘柄ではなく、さまざまな商品が組み合わさっています。
価額算定は投資信託一口あたりの「基準価額」が元になります。
一般的な投資信託では、1日に1つ、基準価額が公表されます。
そのため、投資信託の評価方法(相続税評価額の算出方法)は複雑です。
投資信託の種類によっても異なります。
投資信託の相続税評価の詳しい方法については、以下の記事を参考にしてください。
関連記事
投資信託の相続税評価の方法は?5つの種類別の評価方法と注意点
参考
裁判所:平成23年(受)第2250号 共有物分割請求事件 平成26年2月25日 第三小法廷判決
国税庁:相続預金に対する滞納処分上の諸問題―最高裁の判例変更等を踏まえて―,2 研究の概要,(3)可分債権の相続と滞納処分~(4)相続預金に関する判例変更とその対応
一般社団法人 投資信託協会:基準価額とは
投資信託の相続手続きの流れ
ここからは、亡くなった方の財産に投資信託があった場合の相続手続きの流れについて解説します。
全体の流れは以下のとおりです。
なお、以下のケースのときは手順が少し異なります。
・遺言書があり、遺言書どおりに相続をおこなう場合(遺言書の有無にかかわらず相続人が一人だけの場合も含む)
・遺産分割協議書を作成する場合
1.故人の投資信託口座がある金融機関に連絡する
相続が発生した(=財産の所有者が亡くなり被相続人となった)場合は、金融機関にその旨について連絡をおこないます。
投資信託の場合も、故人が亡くなったことを金融機関に連絡することから相続がスタートします。
【豆知識】金融機関に被相続人の死亡を連絡するとなぜ口座は凍結されるのか
預貯金の場合、故人の口座がある銀行に連絡を入れると、その口座は凍結されます。
いったん凍結されると、遺産分割協議が完了するまではたとえ相続人でも、原則として現金を引き出すことはできなくなります(上限付きで金銭を引き出せる仮払い制度はあります)。
投資信託も預貯金同様、相続が起きたことを証券会社などに連絡した時点で、口座は凍結され取引などはできなくなります。
これらの措置には、「相続人や相続財産の分割方法が確定するまで故人の財産を保護する」という目的があります。
「被相続人が死亡した時点の資産」が相続財産として評価対象になるためです。
2.故人の財産を調査する(財産調査)
故人の財産を調査し、確定させます。
相続の手続きがほとんど終わって後から気づいていなかった証券口座などが見つかると、手続きがやり直しになったり、滞ったりということになりかねません。
可能な限り、生前にある程度相続人と情報共有しておくことが望ましいですが、できなかった場合は以下を調べます。
・郵便物
・電子メール
・銀行や証券会社がわかっていれば取引状況
・スマホやパソコンの履歴、ブックマーク
・その他、自宅の机の引き出しや金庫など
3.分割方法を確定する
投資信託の有無に限りませんが、相続が発生したら遺言書があるかどうかを調査し、遺言書がある場合はそれに原則従い、分割方法を確定させます。
ただし、あくまでも「原則」であり、相続人全員の同意があれば遺言書とは異なる分割方法も可能です。
遺言書が無い場合や、遺言書があっても投資信託についての指示が無い場合は、遺産分割協議をおこなって相続人全員の同意で決めることになります。
【豆知識】金融機関の特定に注意…ネット証券だと確認が遅れることも
被相続人がネット証券などを利用していた場合は、すぐに相続人が資産の存在に気が付かず、証券会社の特定にも時間がかかることがあります。
あらかじめ被相続人の財産については、生前から相続人とともに情報を共有しておくことが望ましいといえるでしょう。
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相続でもめる7つの原因と対策!スムーズに遺産を分ける方法とは?
4.金融機関で残高証明書を取得(相続発生日時点のもの)
相続発生日時点の残高証明書は、相続税申告のために必要です。
取得には以下の書類が必要です。
・戸籍謄本等
※名義人の死亡が確認できるもの(法定相続情報一覧図の写しがあれば戸籍謄本等は不要)
※届出人が相続人であることがわかるもの
・届出人の実印と印鑑証明書(発効後6ヵ月以内のもの)
取得を依頼してから手元に届くまで、2週間程度かかります。
相続税申告の期限ぎりぎりにならないよう、余裕をもったスケジュールで進めましょう。
5.相続手続きに必要な書類を準備する
残高証明書の請求と同時に、投資信託の相続手続きに必要な書類を準備しましょう。
遺言書がある場合と、無い場合で少し異なります。
なお、必要な書類は各金融機関で異なります。
そのため故人の口座があった金融機関ごとに確認が必要になります。
遺言書が無い場合は通常、相続人全員の署名や実印(の押印)が必要になります。
相続人全員がすぐ近所に住んでいたり、すぐに連絡が取れたりする状況ならばよいのですが、遠方に住んでいたり、連絡が難しかったりというケースもあります。
計画を立てて進めないと何度も同じ書類を申請したり、相続人の押印をもらいにいったりという手間が発生しかねません。
相続人全員で協力することが望ましいですが、難しい場合は連携のとれる相続人同士で情報を共有し、早めに進めていきましょう。
・遺言書がある場合に必要な書類
・遺言書
・遺言執行者の印鑑証明書
・名義人の死亡が確認できる戸籍謄本等
・相続手続き依頼書(各金融機関指定の書類)
・遺産分割協議書を作成する場合に必要な書類
遺言書がない場合、遺言書があっても投資信託の分割方法が指定されていない場合は、相続人・包括受遺者が協議(遺産分割協議)をおこなって、投資信託の分割方法を取り決めることになります。
遺産分割協議書を作成して投資信託の相続について決める場合、必要な書類は以下のとおりです。
・遺産分割協議書
・法定相続人全員の印鑑証明書
・名義人の出生から死亡まで確認できる戸籍謄本等
(「法定相続情報一覧図の写し」があれば戸籍謄本等の提出は不要)
・相続人全員の現在戸籍(全部事項証明書)など
・相続手続き依頼書(各金融機関指定の書類)
6.相続人自身の口座を故人(被相続人)が投資信託を保有していた金融機関で開設する
相続人の口座に投資信託の移管をおこなうため、相続人名義の口座を同じ金融機関で開設します。
7.必要書類を提出する
必要書類を金融機関へ提出します。
提出は郵送または実際に店舗窓口に来店しておこないます。
来店して提出と手続きをおこなうと、書類の不備などを確認してもらえるため、不安な人にはおすすめです。
8.名義変更手続きをおこなう
必要書類の受付完了後、不備がなければ、2週間~1ヵ月程度で相続手続きが完了します。
名義変更が完了すると、相続人は相続した投資信託をそのまま保有することも、売却することも可能になります。
【豆知識】調停・審判をおこなう場合もある
遺言書がある場合と遺産分割協議をおこなう場合を紹介しました。
上記いずれの方法でも話がまとまらず、相続人全員の合意に至らなかった場合は、家庭裁判所の遺産分割の調停又は審判の手続を利用することになります。
この場合、「遺産分割調停事件」として、相続人のうちの一人、もしくは複数人がほかの相続人全員を相手方として申し立てます。
出典:裁判所 遺産分割調停
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投資信託の名義変更は可能?相続や生前贈与の際の手続きと注意点
投資信託を相続する際の注意点
投資信託はすでに見てきたように、預貯金や上場株式と異なり相続税評価額の算定が複雑だったり、相続のための手続きが煩雑だったりします。
ここでは投資信託を相続する際に気を付けておきたい注意点を解説します。
1.投資信託の価値は「基準価額」のため「変動」する
投資信託の基準価額は、前述のとおり日によって変動します。
そして、遺産は遺産分割時点の価額で評価するというのが原則です。
これをあまり考慮していない、あるいは知識を持っていないまま売却などをおこなうと、後々相続人の間でトラブルになるケースもあり得ます。
たとえば、被相続人の投資信託が遺産分割協議のタイミングでは600万円の価額であり、それを基準に相続人で分割に合意したとします。
ところが実際に相続人それぞれの名義に変更された後、相続人Aは売却したところ500万円になっており、その後しばらくたってから売却した相続人Bは1,000万円だったとします。
この場合、AとBに大きな金額の差が出てしまいます。
しかし遺産としての投資信託が相続人によって分割された後に価額が変動したとしても、それによって相続人が被る結果は自己責任になります。
このような事例で相続人の間に不満が起きることを防ぎたい場合は、相続人代表者を選任して相続人全員の同意のもと売却し、現金にしてから分割するほうが心情的に不公平感が減るかもしれません。
2.税金(所得税や贈与税)がかかることがある
被相続人(故人)が投資信託を取得した当時の時価より、相続人が相続後に解約などをおこなった時点の時価が高くなっていると、利益が発生します。
この利益については20.315%の税金が発生します。
また、分割の方法として相続人一人が投資信託をすべて相続し、代償分割としてほかの相続人に相続額相当の金銭を支払うケースがあります。
この場合はその経緯を遺産分割協議書に明記していないと、一人の相続人が贈与を受けたとみなされ贈与税が発生するおそれがあります。
3.相続税の支払い期日に注意する(遅れると延滞税が発生)
投資信託の名義変更は、上記のとおり書類の取り寄せや確認などが必要になることもあり、時間がかかります。
後回しにしていると、相続税の支払いまでに分割が終わらないおそれがあるため、早めに故人の保有していたものを確認し名義変更までの手順を進めていきましょう。
なお、相続税の納付は、「相続の開始があったことを知った日(通常、被相続人の死亡の日)の翌日」から10か月以内に、金銭で納付することと定められています。
この期日に遅れると、延滞税が発生します。(年4.3%~年14.6%)
出典:国税庁 相続税の納付
4.専門家への相談も検討する
相続手続き自体、法律や税金に関する専門的な知識が必要となる場合があります。
さらに投資信託の場合はその確認から価額のおおまかな算出、相続税評価額の計上、必要書類や手続きなど煩雑になることが予想されます。
また相続人同士でトラブルになることも起こり得ます。
必要に応じ、相続に詳しい弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
この記事では投資信託を相続する場合の手順、必要書類、注意点などを解説しました。
投資信託は預貯金などと異なり、複数の債権や株式などが組み合わされている商品です。
そのため相続発生時の価額の決まり方も複雑です。
相続の手続きが完了するまでは取引も入出金もできないため、早めに相続人全員で分割の方法を決め、手続きを進めていく必要があります。
また投資信託を持っている人は、将来自分の子や孫など(相続人)が相続で苦労しないよう、投資信託をどの金融機関で取引しているか、情報を共有しておくことも大切です。
専門家への相談も利用しながら、投資信託の相続について知識を深め、スムーズに手続きなどを進められるようにしてください。