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「資産運用は若いうちに始めるほうが有利」といわれます。では、70歳から資産運用を始めても遅いのでしょうか。決してそんなことはありません。
老後生活を少しでも豊かにするには、定期収入を増やすための資産運用が必要です。
本記事では、70歳からの資産運用で基本にすべきインカムゲイン投資について詳しく解説します。
70歳からでも資産運用をしたほうがよい理由
70歳における生活の状況は人によってさまざまですが、以下の3つの理由で資産運用は行ったほうがよいといえます。
1.インフレが老後資金を目減りさせるから
ウクライナ戦争に端を発した輸入物価の高騰は、これまでデフレが続いていた日本をインフレに転換させる大きな要因になりました。
もしインフレが10%進めば、これまで1万円で買えた商品が1万1,000円出さなければ買えなくなり、老後資金を目減りさせます。インフレの影響を少しでも緩和するためにも、資産運用は必要です。
2.退職金を寝かせておくのはもったいないから
長い期間同じ会社に勤務した人は、ある程度まとまった退職金を支給されるかもしれません。
給与水準にもよりますが、退職金が数千万円になるケースもあります。「老後資金に手を付けないように」と、受け取った退職金を銀行に預けている人はもったいないです。
銀行の1年定期預金金利は0.0020%(2024年3月7日現在、三菱UFJ銀行スーパー定期の例)で、利息はわずかしか入りません。
100万円を1年間預けた場合の利息は20円(税引前)です。しかもNISAでは定期預金を使えないので、税金が差し引かれます。
一方、2%の利回りで資産を運用できれば2万円の運用収益を得られ、NISAも利用できるので非課税で2万円をそっくり受け取れます。
3.無理な働き方をしなくて済むから
現在、人手不足が深刻です。そのため、業種によっては70歳でもパート・アルバイトに採用されるケースがあります。
しかし、70歳の人が長時間働くのは難しいでしょう。資産運用によって毎月配当金や分配金を得られれば、長時間働かなくて済むかもしれません。
働くこと自体は健康に良く、人との交流もあるので悪いことではありませんが、午前中に3時間など無理のない勤務体系の仕事を選ぶことが大切です。
資産運用で生活費をいくらか補えれば、仕事の選択肢も広がるでしょう。
安定資産運用の基本「インカムゲイン」とは何か
安定した資産運用の基本は、毎月定期的にインカムゲインを得ることです。ここでは、インカムゲインとキャピタルゲインについて確認しておきましょう。
1.インカムゲインは保有しているだけで得られる収益
インカムゲインとは、保有しているだけで得られる収益のことです。
株式を保有した場合の配当金や株主優待、投資信託を保有した場合の分配金、不動産の賃貸経営による家賃収入などが該当します。
高利回りの銘柄やファンドに投資すれば、値上がりしなくても配当金や分配金を得るだけで採算が取れる場合があります。
2.キャピタルゲインとインカムゲインの違い
キャピタルゲインとは、株式や不動産などを売却して得られる利益のことです。インカムゲインが値下がりしていても得られるのに対し、キャピタルゲインは購入価格より値上がりしなければ得られないという違いがあります。
また、保有中に得られるのがインカムゲインで、売却して得られるのがキャピタルゲインという違いもあります。
インカムゲインを得られる投資と得られない投資
インカムゲインのある投資が有効といっても、すべての投資で得られるわけではありません。
以下のようにインカムゲインを得られる投資と得られない投資があるので、あらかじめ把握して投資先を選ぶことが大切です。
インカムゲインを得られる投資 | 株式、投資信託、ETF、J-REIT、債券、不動産、不動産小口化商品 |
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ケースによってインカムゲインを得られる投資 | FX |
インカムゲインを得られない投資 | 暗号資産(仮想通貨)、金、美術品 |
ケースによってインカムゲインを得られない投資 | 株式、投資信託、ETF、不動産 |
・インカムゲインを得られる投資
株式は配当金、投資信託やETF、J-REITは分配金、債券は利息、不動産は家賃収入を得ることができます。
高利回りの銘柄なら、長期保有によりインカムゲインだけで採算が取れる場合があります。
・ケースによってインカムゲインを得られる投資
FXは金利の低い通貨を売って金利の高い通貨を買った場合に、スワップポイントを受け取れます。
スワップポイントとは、2国の通貨の金利差から得られる利益のことです。例えば金利0.1%の通貨を売って1.5%の通貨を買うと、金利差の1.49%相当分を毎日受け取ることができます。
・インカムゲインを得られない投資
暗号資産や金には配当金がないので、インカムゲイン投資はできません。絵画などの美術品に投資する人もいますが、オークションなどで売却するまで収益はありません。
・ケースによってインカムゲインを得られない投資
投資信託とETFは、無分配型のファンドを買うと分配金を受け取れないので注意が必要です。
その分が元本に組み入れて運用されるので、投資信託の価額は上がることが期待できます。株式は、無配の銘柄を買うと配当収入を得られません。
不動産は、空室が発生している間は家賃収入を得られません。
新NISAを使った資産運用で1,800万円まで非課税で資産を保有できる
老後資金を少しでも増やしたい時にネックになるのが、税金です。
株式や投資信託などの売却益や配当金、分配金から、20.315%(復興特別所得税含む)の税金が差し引かれます。10万円の配当金があっても2万315円が差し引かれるため、手取りは8万円弱となります。
しかし、2024年にスタートした新しいNISA(少額投資非課税制度)を利用すると、1,800万円の非課税保有枠が与えられるため、少額投資家ならほぼ税金のかからない投資が可能になりました。
70歳以降の資産運用も、NISA口座を開設して行うのが基本です。新NISAには「成長投資枠」と「つみたて投資枠」があります。
新NISAの成長投資枠
成長投資枠では、個別株と一定の条件を満たした投資信託に投資できます。一定の条件とは「信託期間20年未満、毎月分配型の投資信託及びデリバティブ取引を用いた一定の投資信託を除外した投資信託」です。
成長投資枠の非課税保有限度額は、1,800万円のうち1,200万円です。非課税保有期間は無期限なので、1,200万円分の株式や投資信託から生じる配当金や分配金は、生涯非課税で受け取ることができます。
新NISAのつみたて投資枠
つみたて投資枠は投資信託専用の投資枠で、個別株に投資することはできません。対象になる投資信託は「長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託」です。
つみたて投資枠の非課税保有限度額は、成長投資枠をまったく使わなければ1,800万円です。仮に成長投資枠を1,200万円使った場合は、残りの600万円が限度額となります。
70歳ではiDeCoに加入できない
NISAと並ぶ非課税投資制度がiDeCo(個人型確定拠出年金)です。自分で掛金を拠出して、指定された商品の中から選んで運用し、その元本と運用益を60歳以降年金として受け取る個人年金制度です。そのため、60歳まで資産を引き出すことができません。
掛金、運用益、給付金のすべてが非課税になる有利な制度ですが、加入期間が20歳以上65歳未満であるため、70歳では加入することができません。
70歳から資産運用をする時の基本方針3つ
70歳から資産運用を始める場合は、以下のような点を基本方針として行う必要があります。若い時と違って運用の失敗は許されないので、慎重な運用が求められます。
1.緊急時のために全額を投資しない
70歳を過ぎると、いつ病気にかかってもおかしくありません。緊急時に使える現金を残すため、預貯金の全額を資産運用に回すのは避けましょう。
退職金などの資産状況にもよりますが、資産運用は預貯金の半分程度に抑えたほうがよいでしょう。
2.価格変動の大きい投資は避ける
老後資金の運用ですから、大きく減らすことはできません。よって、価格変動の大きい商品での運用は避けるべきです。
例えば、仮想通貨の代表格であるビットコインは価格が乱高下しやすく、1日で100万円以上動くこともあります。70歳で運用するのは、リスクが高すぎます。
3.毎月収入を得られるのがベスト
70歳からの資産運用は、定期的に収入を得られるような運用方法がベストです。
70歳という年齢でマイホームや車を購入することは考えにくいので、大きな利益を狙う必要はありません。
「年金の足しとして配当金や分配金を得られればよい」と考えて運用すれば、それほど大きな損失にはならないでしょう。
資産運用で定期収入を得るため3つの方法
資産運用で定期的に収入を得るには、工夫が必要です。以下のような運用方法が考えられます。
1.毎月分配型投資信託
投資信託の中には毎月分配金を支払うファンドがあり、分配金を年金の足しにしたい人に向いています。
ただし、毎月の分配金が保証されているわけではなく、株式市場が下落するなどで運用成績が悪化した場合は無配になることもあります。
また、分配金を再投資せずに支払うので運用資産が減少します。そのため、ファンドの成長は期待できないのがデメリットです。
2.年2回配当の高利回り株式6銘柄による時間差運用
株主への配当は、多くの会社が年1回(本決算のみ)または年2回(本決算と中間決算)行っています。
したがって、配当月を1ヵ月ずつずらして年2回配当の銘柄を6銘柄購入すれば、毎月配当金が入る生活を実現できます。
配当金に加えて株主優待を実施している銘柄なら、自社商品や優待券を受け取る楽しみもあります。
米国株は多くの銘柄が四半期ごとに配当を行っているため、決算期の異なる3銘柄で毎月配当金が入るようにすることができます。
3.不動産クラウドファンディングの満期期間別組み合わせ運用
不動産クラウドファンディングは、ファンドごとに運用期間が決まっています。
3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月などいろいろあるので、上手く組み合わせれば定期的に分配金を得ることができます。1口1万円や10万円のファンドが多いので、分散して投資しやすいというメリットがあります。
不動産クラウドファンディングへの応募方法には「先着式」と「抽選式」があります。
先着式は、条件の良いファンドの場合は募集開始後すぐに満口になるケースが目立つので、早めに応募しましょう。抽選式も応募が多いと買えない場合があり、お金さえ出せば買える他の投資とは異なります。
贈与や相続を考えた資産運用
70歳になると、相続について考え始める人も多いでしょう。相続を考えた資産運用先としては、小口化所有オフィスが適しています。
不動産クラウドファンディングは1口1万円や10万円のファンドが多いため、生前贈与をするには細かくなりすぎるのが難点です。
まとめて10口購入することもできますが、抽選式のファンドは応募が多いと希望の口数を購入できないことがあります。
小口化所有オフィスは、「Aシェア」の例では100万円×5口(一例であり物件によって異なります)とまとめて投資できる商品があります。
購入する時は500万円が必要ですが、100万円ずつ小口に分けて贈与することができます。「暦年贈与」の非課税枠は受贈者1人あたり年110万円なので、5人の子や孫がいる場合は非課税で贈与でき、節税につながります。
資産運用で注意すべき3つのポイント
資産運用は、以下のようなポイントに注意して行う必要があります。特に海外資産への投資は要注意です。
1.外国株や外国債券には為替リスクがある
外国株や外国債券の配当金・利息は、為替に左右されます。
成長性が高く連続増配株が多いことから米国株を好む投資家は多く、2024年3月時点で円安局面にあることも米国株人気の追い風になっています。
例えば配当金が1株1ドルの米国株を保有している場合、為替が1ドル140円の時の配当金は140円(税引前)ですが、その後為替が円安に進んで150円になった場合、受取配当金は150円に増えます。円安時に外国株の人気が高まるのは、当然のことです。
しかし、1ドル140円の円高になると受取配当金は減ってしまいます。
配当金は同じ1株1ドルなのに、為替の変動で手取り額が変化するのが米国株のリスクです。ユーロなど他の通貨で支払われる外国株や外国債券にも、同じリスクがあります。
2.外国株の配当金はNISAを使っても現地で課税される
外国株もNISA枠で購入できます。しかし、外国株は配当金が支払われる時に現地で税金を差し引かれるというデメリットがあります。
例えば、米国の配当金の税率は10%です。NISA口座で買った場合、日本国内では配当金が非課税ですが、米国で発生する税金を非課税にすることはできません。
米国で差し引かれた配当金を、日本で非課税で受け取ることになります。
3.分配金が支払われない投資信託がある
投資信託はすべての銘柄が分配金を支払うわけではなく、「無分配型投資信託」もあります。
分配金を出さずに再投資して、元本に組み入れる仕組みで運用されます。ファンドの資産規模が拡大するため基準価額が上昇するというメリットはありますが、定期収入を得る投資には向きません。
若い年代から投資を始めるなら、老後資金を作るために無分配型ファンドで元本の成長を目指すのもよいかもしれません。
しかし、70歳から投資を始める場合は、定期的に分配金を得られるファンドを購入したほうがよいでしょう。
70歳からの資産運用で老後生活を豊かにしよう
「人生100年時代」といわれる今、長生きするほど老後に必要な金額も増えます。年金があまり伸びない中、物価高によって生活費の負担は増すばかりです。
これまで70歳という年齢を対象にした資産運用の話は、あまり語られてこなかったのではないでしょうか。定年後の人生が長くなった今は、「資産運用など必要ない」とはいっていられません。
70歳の投資ではキャピタルゲインを狙う必要はないので、インカムゲインを目的にした安定運用をしやすいというメリットがあります。
非課税で配当金や分配金を受け取れるNISA制度の拡充は、資産運用を始めるのに良いタイミングといえます。70歳からでも遅くないので、豊かな老後生活を目指して資産運用を始めてみてはいかがでしょうか。