生前贈与のやり方・流れをわかりやすくゼロから解説!
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目次

  1. 生前贈与の基本
  2. 生前贈与における2つの選択肢
  3. 1.贈与する相手・資産・目的を決める
  4. 2.贈与税の課税方法を決める
  5. 3.贈与契約書を作成する
  6. 4.贈与財産を受贈者に移す
  7. 5.(必要に応じて)不動産贈与に際して不動産取得税などの納付を完了させる
  8. 6.(必要に応じて)贈与税の申告・納付を完了させる
  9. 生前贈与に必要な費用・税金は?
  10. まとめ

生前贈与に関する知識は、贈与税や相続税の課税を抑えるためにも、ぜひ頭に入れておきましょう。

子どもの住宅資金や孫の子育て・教育のために財産を早期に承継でき、認知症を患う前に判断力がある状態で財産を引き継げるというメリットもあります。

とはいえ、生前贈与のやり方を知っている人は多くありません。この記事では生前贈与の流れを中心に、贈与財産の評価方法や生前贈与に必要な費用・税金、贈与税の納付方法などについて、わかりやすく解説します。

生前贈与の基本

まず、生前贈与の基礎知識を解説します。

生前贈与とは生きている間に財産を贈与すること

「生前贈与」とは、生きている間に財産を贈与することです。

一方、亡くなったタイミングで財産が引き継がれることを「相続」と呼びます。贈与と相続は似て非なるものです。

生前贈与を行う場合は「贈与税」の対象となりますが、基礎控除や非課税措置の特例などを活用すると贈与税がかからないこともあります。

一方、相続の場合は「相続税」の対象となります。相続税でも基礎控除などが用意されており、非課税となることがあります。

詳しくは後述しますが、贈与税には2つの課税方法があります。「暦年課税」と「相続時精算課税」です。

どちらを使うか自分で選べますが、それぞれのメリット・デメリットを知った上で選択することが大切です。ちなみに相続時精算課税を一度選択すると、暦年課税に戻すことはできません。

生前贈与の4つメリット

生前贈与の主なメリットは以下の4つです。

生前贈与のメリット
1.相続税の節約につながる
2.子どもや孫に資金ニーズがある時期に資産を贈与できる
3.認知症を患って適切な判断ができなくなるリスクを避けられる
4.相続時に起こりやすいトラブルを避けられる

1.節税につながる

生前贈与の仕組みをうまく使って早めに資産を子どもや孫に贈与しておけば、相続時にすべての資産に対して相続税が課税される場合よりも、課税額を抑えられます。

例えば、贈与税の課税方式が暦年課税の場合、贈与を受ける人は年間110万円までは非課税になります。

例えば自分の子ども3人に毎年110万円ずつを10年間贈与すると、3,300万円(=3人×110万円×10年間)を非課税で贈与できます。

2.子どもや孫に資金ニーズがある時期に資産を贈与できる

生前贈与では、スピーディーに子どもや孫に資産を渡すことができます。

子どもの結婚や住宅の購入、孫の子育て・教育に多くのお金が必要なタイミングが、自分が亡くなる前に訪れるケースは少なくありません。

相続を待たずに資産を渡すことができれば、自分の子どもはかなり助かるでしょう。

子どもや孫のことを思うなら、生前贈与に取り組むことをおすすめします。

3.認知症を患って適切な判断ができなくなるリスクを避けられる

認知症を患うと、適切な判断ができなくなります。認知症は年齢が上がるにつれて発症リスクが高まるので、自分が健康なうちに生前贈与を行うべきです。

そうすれば、資産の贈与・相続に自分の意思をしっかりと反映することができます。

認知症を予防するためにバランスの良い食生活や十分な睡眠を心がけ、定期的な運動や脳トレを行っていても、認知症にかからないとは限りません。

4.相続時に起こりやすいトラブルを避けられる

自分が亡くなった後の相続では遺言書などによって遺産分割などが行われます。

本人が亡くなっているため、遺言書の内容に不備があったり、記載が漏れていたりする資産があると親族間のトラブルにつながります。

生前贈与であれば本人が生きているため、そのような不備や漏れがあっても自分で対応できます。生前贈与を行えば、親族間に不和が生じるリスクも減らせるでしょう。

生前贈与の節税の6パターンとは?

生前贈与で覚えておきたい節税の6パターンは以下のとおりです。

生前贈与で覚えておきたい節税の6パターン
1.「暦年課税」において毎年の基礎控除枠110万円を活用する
2.一度にまとまった資産を贈与する場合は「相続時精算課税」を選択する
3.「配偶者への贈与」における非課税措置の特例を利用する
4.「住宅取得等資金の贈与」における非課税措置の特例を利用する
5.「教育資金の一括贈与」における非課税措置の特例を利用する
6.「結婚・子育て資金の一括贈与」における非課税措置の特例を利用する

1.「暦年課税」において毎年の基礎控除枠110万円を活用する

課税方式を「暦年課税」にすれば、贈与を受けた財産の年間合計額が110万円までであれば非課税となります。

2.一度にまとまった資産を贈与する場合は「相続時精算課税」を選択する

評価額が大きい資産を贈与する場合に「相続時精算課税」を選択したほうがよい理由は、税率は基本的に暦年課税のほうが高く設定されているからです。

3.「配偶者への贈与」における非課税措置の特例を利用する

「配偶者への贈与」への贈与の場合は最高2,000万円の非課税枠があります。

4.「住宅取得等資金の贈与」における非課税措置の特例を利用する

「住宅取得等資金の贈与」においては最高1,000万円の非課税枠があります。

5. 「教育資金の一括贈与」における非課税措置の特例を利用する

「教育資金の一括贈与」においては最高1,500万円の非課税枠があります。

6.「結婚・子育て資金の一括贈与」における非課税措置の特例を利用する

「結婚・子育て資金の一括贈与」においては最高1,000万円の非課税枠があります。

生前贈与における2つの選択肢

生前贈与を行う際には2つの選択肢があります。「自分で生前贈与の手続きを行う」「専門家に生前贈与の手続きを任せる」です。

生前贈与を行う際の2つの選択肢
1.自分で生前贈与の手続きを行う
2.専門家に生前贈与の手続きを任せる

1.自分で生前贈与の手続きを行う

結論から言えば、生前贈与の手続きを自分だけで行うことは可能です。

ただし、専門的な知識が求められることが多いため、必要に応じて調べる必要があります。特に不動産を相続する場合は、苦労するケースが少なくありません。

2.専門家に生前贈与の手続きを任せる

生前贈与に手間や時間をかけたくない場合は、税理士や弁護士、司法書士などに頼みましょう。

ただし、税理士や司法書士によって得意分野が違うので、事務所の公式サイトなどを見て、贈与や相続を多く扱っている事務所を選ぶことが大切です。

以下では自分で生前贈与を行う際の具体的な流れや注意点を説明します。

生前贈与を行う際の具体的な流れや注意点
1.贈与する相手・資産・目的を決める
2.贈与税の課税方法を決める
3.贈与契約書を作成する
4.贈与財産を受贈者に移す
5.(必要に応じて)不動産贈与に際して不動産取得税などの納付を完了させる
6.(必要に応じて)贈与税の申告・納付を完了させる

1.贈与する相手・資産・目的を決める

まず明確にしなければならないのは、「贈与する相手」「贈与する資産」「贈与する目的」です。

贈与相手によって変わる適用税率

贈与する相手が決まると、どの税率が適用されるかが決まります。贈与税の適用税率には、「一般税率」と「特例税率」があります。

一般税率が適用されるのは、以下のようなケースです。

・兄弟間の贈与
・夫婦間の贈与
・親から未成年者の子への贈与

特例税率が適用されるのは、以下のようなケースです。

・祖父から孫への贈与
・親から未成年ではない子への贈与

税率は、一般税率よりも特例税率のほうが低く設定されています。

例えば基礎控除後の課税価格が1,000万円の場合、一般税率が適用される場合の贈与税額は275万円ですが、特例税率が適用される場合は210万円で済みます。

出典:国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)

贈与資産によって変わる資産価額の計算方法

贈与する資産によって、資産の評価額の計算方法が変わります。

現金1,000万円の場合はそのまま1,000万円と評価されますが、土地や家屋などの不動産の場合は路線価や固定資産評価額をもとに計算されます。

出典:国税庁 No.4602 土地家屋の評価

贈与する目的によっては非課税措置の特例を使える

贈与の目的が住宅の新築・購入や結婚、子育て・教育であれば、非課税措置の特例を使えます。

2.贈与税の課税方法を決める

続いて、適用させる課税方式を決めます。前述のとおり、課税方式には「暦年課税」と「相続時精算課税」があります。

贈与税の課税方法ごとのメリットは?

暦年課税では、毎年110万円の基礎控除があります。つまり毎年110万円以内の資産であれば、非課税で贈与を受けることができるのです。

相続時精算課税には、評価額が大きい資産を一度に贈与する場合に暦年課税よりも課税額を抑えられる、税金を支払うタイミングを相続時に先送りできるといったメリットがあります。

3.贈与契約書を作成する

贈与する相手・資産・目的と課税方式を決めたら、贈与契約書を作成します。

贈与契約書を作成せずに贈与を行うと、将来生前贈与の証拠を用意できずに税務署との間でトラブルになることがあるため、必ず作成しましょう。

贈与契約書における必要事項

贈与契約書に記載しなければならない事項は、以下のとおりです。

・贈与を行う日付(年月日 ※西暦もしくは和暦)
・贈与者(贈与をする人)と受贈者(贈与を受ける人)の氏名・住所・生年月日
・贈与の対象財産
・署名・捺印(印鑑は認印でもよいが実印がベター)

贈与の対象財産が土地の場合は以下を記載します。

・所在
・地番
・地目
・地積
・建物の場合は所在、家屋番号、種類、構造、床面積

法務局で「全部事項証明書(登記簿謄本)」を取得し、これらを記載しましょう。

贈与の対象財産が株式の場合は以下を明記します。

・会社名
・本店所在地
・株数
・株券番号

贈与契約書は2枚作成し、贈与者と受贈者がそれぞれ保管します。それぞれが保管すれば、贈与契約書の紛失や内容の改ざんといったトラブルを防ぐことができます。

贈与契約書は、贈与のたびに作成します。贈与契約書はパソコンで作成しても、手書きで作成しても構いません。ただし、日付や署名の箇所は手書きで記載することが推奨されます。

4.贈与財産を受贈者に移す

贈与契約書を適切に作成し、双方が署名・捺印を終えたら、贈与財産を受贈者に移します。

現金を渡す場合は手渡しではなく、銀行振込を利用しましょう。後で、生前贈与の証拠として確認しやすいからです。

「名義口座」と判断されないよう注意が必要

ただし、銀行振込行う際には振込先が「名義口座」と判断されないよう注意が必要です。

名義口座への振込と判断されると、生前贈与が認められなくなる場合があり、節税効果がなくなるからです。

名義口座とは、口座の名義人とその口座に入っている預金の所有者・管理者が異なる預金口座のことです。

例えば、子ども名義の口座に現金を振り込んだとしても、その口座の管理者があなたであることがわかると名義口座と判断されます。

贈与者と受贈者の口座で同じ銀行印が使われていた場合や、受贈者の通帳を贈与者が保管・管理していた場合は名義口座と判断されやすくなるので注意してください。

5.(必要に応じて)不動産贈与に際して不動産取得税などの納付を完了させる

不動産を贈与する際には登録免許税と不動産取得税が課税され、それぞれ納付が必要です。不動産を贈与しない場合は、このステップは飛ばしてください。

納付のやり方

登録免許税は、贈与登記の際に納付します。税率は固定資産税評価額の2%です。登録免許税は贈与税が課税されない場合でもかかります。

不動産所得税も、贈与税が課税されない場合でもかかります。税率は、土地や住宅用家屋の場合は3%、非住宅用の家屋の場合は4%です。

所管の税事務所に申告した後、都道府県から届く納税通知書を使って税事務所や金融機関、郵便局、コンビニなどで納付します。ちなみに申告から納税通知書が届くまで、半年から1年程度かかります。

出典:東京都主税局 不動産取得税

6.(必要に応じて)贈与税の申告・納付を完了させる

最後に、贈与税の申告・納付を完了させます。

課税方式が暦年課税であり、年間に贈与を受けた資産の合計評価額が基礎控除の110万円以内であれば、申告は不要です。

一方、相続時精算課税にも年間110万円の基礎控除がありますが、評価額の合計が110万円以内であっても、相続時精算課税の方式で贈与を受けた場合は申告が必要です。

贈与税の申告手続きのやり方

贈与税の申告書の受付期間は毎年2月1日から3月15日までで、贈与税の納付期限は3月15日です。

贈与税の申告書は税務署の窓口や郵送でも提出できますが、e-Taxを使う方法が便利です。

申告書には必要書類を添付する必要がありますが、スマートフォンのカメラやスキャナを使ってデータ化できれば、e-Taxでそのデータを送信できます。e-Taxは、期間中は24時間利用できます。

贈与税の納付は、税務署や金融機関で用意されている納付書を使って税務署や金融機関で行う方法や、スマホアプリやクレジットカード、インターネットバンキングなどで行う方法があります。また、QRコードを使ってコンビニで納付する方法もあります。

贈与税は原則として期限までに納付しなければなりませんが、納付が困難である理由があり、かつ一定の要件を満たしている場合は延納の制度を利用できます。

生前贈与に必要な費用・税金は?

生前贈与で発生する費用・税金は、以下のとおりです。

・贈与税
・登録免許税(不動産を贈与する場合)
・不動産取得税(不動産を贈与する場合)
・依頼報酬(専門家に依頼する場合)

贈与税は、暦年課税で贈与を受けた財産の合計評価額が年間110万円以内の場合や、相続税課税方式を選択した場合などは、納付の必要はありません(相続時精算課税は、納税を先送りできる課税方式です)。

土地や家屋などの不動産の贈与を受けた場合は、登録免許税と不動産取得税の納付が必要です。

自分ですべての手続きを完了させる場合はこれらの税金しか発生しませんが、司法書士や税理士、弁護士などに手続きの代行などを依頼した場合は、報酬を支払う必要があります。

費用は司法書士や税理士によっても、依頼する手続きの内容・範囲などによっても異なりますが、5万〜10万円程度で済むこともあります。実際に依頼する場合は、複数の事務所に費用の見積もりを依頼するとよいでしょう。

まとめ

生前贈与の基礎知識ややり方、流れを知っておけば、トラブルなく円滑に生前贈与を完了させることができます。

贈与のたびに贈与者と受贈者の間で契約書のやり取りなどが発生するので、契約書を作り直すことがないよう、事前にしっかり準備しておきましょう。

また、贈与税や不動産取得税の納付が遅れると延滞金が課せられることがあるので、注意してください。

岡本一道
岡本一道(著者)
日本の国内メディアと海外メディアの両方でのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会・文化など幅広いジャンルにおけるトピックスで多数の解説記事やコラムを執筆。ニュースメディアのコンサルティングなども手掛ける。