親族間売買の適正価格を知る方法とは?メリット・デメリットも解説
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不動産の親族間売買は、愛着のある自宅を他人に売り渡したくない場合に有効な方法です。

半面、通常の不動産売買と異なるので、売買価格の決め方や、どんな費用がかかるのか迷う点も多いでしょう。

本記事では、親族間売買の適正価格の決め方やメリット・デメリットを解説します。

この記事でわかること
  • 不動産の適正価格を知るには不動産鑑定士から鑑定してもらう方法が最も確実
  • 親族間売買をおこなえば住宅ローンを組まなくても住宅が手に入る
  • 親族間でも必ず契約書を作成する

目次

  1. 親族間売買とは
  2. 不動産の親族間売買で適正価格を求める4つの方法
  3. 親族間売買のメリット
  4. 親族間売買のデメリット
  5. 親族間売買の手順
  6. 親族間売買の諸費用と税金
  7. 不動産の親族間売買をおこなう場合の注意点
  8. まとめ|親族間売買でも不動産会社に仲介を依頼した取引がおすすめ

親族間売買とは

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親族間売買とは、親と子や兄弟など親族の間で不動産の売買をおこなうことです。

通常の不動産売買は買主と売主の利害が相反するため、交渉の結果妥協した価格で売買が成立します。

これに対し親族間売買は、買主と売主が身内同士のため、利害が一致するケースが多く、相場よりも低い価格で売買される傾向があります。

不動産の親族間売買で適正価格を求める4つの方法

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親族間売買で難しいのはどれくらいの価格で売買するかです。

親族間売買で客観的に物件価格を評価するには、主に以下の4つの方法があります。

1.不動産鑑定評価額

不動産鑑定評価額は、国家資格である不動産鑑定士が評価した価格です。

不動産評価の専門家による鑑定を受け、「不動産鑑定評価書」が作成されるので、税務署から信頼を得る最も確実な方法といえます。

不動産鑑定士に依頼する場合は、鑑定料がかかります。

報酬は不動産の種類や価格によって異なり、多くの不動産鑑定事務所が「公共事業に係る不動産鑑定報酬基準」を参考にして鑑定料を決めています。

一戸建ての鑑定費用は20~40万円程度が相場となります。

2.不動産会社による査定価格

鑑定費用をかけたくない場合は、不動産会社による査定額を参考にするのも1つの方法です。

不動産会社は多くの物件を売買しているので、依頼する物件と似たような条件の物件がどの程度の価格で取引されているかを把握しています。

実勢価格を知ることができるので参考になりますが、不動産鑑定評価額ほどの信憑性はない点がデメリットです。

3.路線価(相続税評価額)

路線価は相続税評価額の基になる指標です。

路線(道路)に面した宅地1平方メートルあたりの価格を示します。

路線価が定められている地域に土地がある場合に利用できます。

路線価は国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で調べることができます。

調べたい年度を選択し、日本地図から入って所在地を選択すると、土地が位置する路線の価格が地図上に表示されます。

1平方メートルあたりの価格(千円単位)と借地権割合が記載されています。

たとえば295Dと表示されていたら、1平方メートルあたり29万5,000円で、借地権割合が60%(A=90%、B=80%、C=70%、D=60%、E=50%、F=40%、G=30%)であることがわかります。

ただし、路線価は地価公示価格の80%程度の評価額になる点に注意が必要です。

4.固定資産税評価額

建物の適正価格を判断する場合は、固定資産税評価額を参考にするのが一般的です。

固定資産税評価額は、固定資産税を計算するときの基準になる金額で、3年に1度見直しがおこなわれます。

評価額は総務省が定めた「固定資産評価基準」に基づき、知事または市町村長が決定する仕組みです。

原則として「固定資産税の課税標準額」と同じ金額になります。

固定資産税評価額は以下の方法で調べることができます。

・ 毎年4~6月頃に市町村から(東京23区は都から)送付される納税通知書を確認する
・ 不動産を所轄する地域の役所で固定資産課税台帳を閲覧する
・ 不動産を所轄する地域の役所で固定資産評価証明書を取得する

親族間売買のメリット

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親族間売買のメリットとしては、主に以下の3つが挙げられます。

1.住宅ローンを組まなくても購入できる

不動産の購入で自己資金が足りない場合、一般的には住宅ローンを組んで購入します。

しかし、ローンを組むと支払い利息の総額もかなりの金額になり、もったいないと感じることがあります。

その点親族間売買では、お互いが合意すれば頭金を除いた購入代金を分割で支払うという方法をとることもでき、利息の支払いを回避することが可能です。

これは親族間の取引だからこそのメリットといえます。

ただし、代金の支払いは分割した金額を毎月きちんと銀行振り込みでおこない、記録に残すことが必要です。

2.相続トラブルを防ぐことができる

相続財産に不動産が含まれているとトラブルになる可能性が高いといわれています。

現金や預貯金と違い、不動産は相続の際に分割することが難しい資産です。

金額も大きいため、他の資産とのバランスがとれない可能性があります。

不動産を子どもや兄弟などの親族に売却して現金化しておけば、相続財産が分けやすくなりスムーズに相続をおこなうことができます。

3.愛着のある自宅を他人に売り渡さなくて済む

どうしても資金が必要になり、長年住んだ自宅を売らなければならない場合、できれば他人に売り渡したくないのが人情でしょう。

親族間売買であれば買主は身内なので、売った後も遊びに行くことが可能です。

もし、子どもに売った場合は売却後に二世帯で住むこともできるなど、柔軟に対応できるのが親族間での売買ならではのメリットといえます。

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親族間売買のデメリット

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親族間売買には、以下のようなデメリットも理解しておく必要があります。

慎重に判断して、決定するようにしましょう。

1.住宅ローンの審査が厳しくなる

親族間売買によって不動産を購入する場合、住宅ローンの審査が厳しくなるのがデメリットです。

親族間売買は通常の不動産取引とは異なるため、融資をおこなっていない金融機関もあります。

親族同士であれば融資して不動産売買がおこなわれたとしても、資金がどのように処分されるのか不透明です。

さらに、後で相続トラブルが発生する可能性もあるので、金融機関は融資に慎重になるという事情があります。

2.税制優遇を受けられない

配偶者や生計を同一にする親族、同族会社など特別な関係にある人や会社に不動産を売却した場合は、「3,000万円の特別控除」や軽減税率の適用を受けることができません。

また、「特定のマイホームを買い換えたときの特例」や「住宅借入金特別控除(住宅ローン減税)」の適用も受けられないため、税制上はかなり不利な売買となることを心得る必要があります。

3.みなし贈与と判断される場合がある

親族間売買で相場より著しく低い価格で売却すると、税務署からみなし贈与と判断される恐れがあります。

親族間での不動産譲渡は相続や贈与とも絡むので、売買を選択した時点で税金逃れが目的ではないかと税務署からマークされやすいというデメリットがあります。

みなし贈与と判断された場合は、不動産の時価と譲渡価格との差額に贈与税が課税されます。

ただし、差額が贈与税の基礎控除である110万円以下であれば贈与税はかかりません。

みなし贈与と判断されないためには、次に紹介する価格算定方法を使って、適正価格を決めることが大事です。

親族間売買の手順

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不動産会社に仲介を依頼せず、自己売買で取引する場合は、自分たちで調べておこなわなければなりません。

親族間売買は以下のような手順で進めます。

1.登記事項証明書を確認する

はじめに法務局に行き登記事項証明書(登記簿謄本)を取得し、登記している不動産の所有者が自分になっているか確認します。

まれに親から相続した土地の名義変更がおこなわれていないケースもあるので注意が必要です。

2.価格を決める方法を選ぶ

先に紹介した適正価格を決めるための方法を選びます。

自分でも可能な限り売買する不動産が現在の市場でどれくらいの価格で取引されているか調査したほうが良いでしょう。

時価とかけ離れた価格で取引した場合、あとから税務調査で問題になるので、事前の調査は大事です。

3.不動産の売買条件を決める

次に不動産の売買条件を決めます。

売買価格のほか、引き渡し時期や代金の支払い方法などを取り決めます。

また、通常の不動産取引では物件に何らかの欠陥があったときの責任の所在や、固定資産税の精算方法なども決めておかなければなりません。

ただ、親族間売買ではそこまで厳密に取り決めない場合もあるようです。

4.売買契約の締結と決済、引き渡しをおこなう

売買条件に売主・買主双方が合意すれば売買契約を締結し、売買代金の決済をおこないます。

買付代金の入金が確認されたら物件の引き渡しをおこないます。

入金は証拠が残るように銀行振り込みにすることが大事です。

代金の決済と引き渡しが終了した後に、所有権移転登記をおこないます。

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親族間売買の諸費用と税金

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親族間売買であっても不動産取引なので、諸費用と税金がかかります。

したがって、買付代金と諸費用・税金を合わせた金額を用意する必要があります。

売主にかかる費用

売主にかかる主な費用は以下の5つです。

・1.印紙税

不動産売買契約書に収入印紙を貼付する形で納税します。

・2.抵当権抹消登記費用

売主が抵当権抹消登記する場合に登録免許税がかかります。

・3.住宅ローン一括返済手数料

住宅ローンの残債を一括返済する場合に手数料がかかります。

・4.必要書類発行手数料

印鑑証明書、住民票の写しなど必要書類を役所で取得する場合に、発行手数料がかかります。

・5.譲渡所得税

売却益が出た場合は、譲渡所得税の納税が必要です。

買主にかかる費用

買主にかかる主な費用は以下の7つです。

・1.印紙税

不動産売買契約書に収入印紙を貼付するほか、住宅ローンを利用する場合にも必要です。

・2.所有権移転登記費用

売買した不動産の名義を変更するときに登録免許税がかかります。

・3.抵当権設定登記費用

買主が住宅ローンを利用する場合、住宅が担保になるため、抵当権を設定するときに登録免許税が必要です。

・4.住宅ローン事務手数料と保証料(料金の相場は三菱UFJ銀行が示す事例)

住宅ローンを利用する場合、金融機関に事務手数料と保証料を支払います。

事務手数料は融資額の2.2%(税込)程度の「定率型」と3万~5万円程度の「定額型」の2種類あります。

定率型が多く、保証料が不要になる場合が一般的です。

保証料は定額型の場合に必要で、融資実行時の一括前払いか、融資金利に0.2%程度上乗せされて支払う方法があります。

・6.必要書類発行手数料

印鑑証明書、住民票の写しなど必要書類を役所で取得する場合に、発行手数料がかかります。

・7.不動産取得税

不動産を取得したときに、不動産取得税がかかります。

親族間売買にかかる税金

親族間売買でかかる税金は以下の4つです。

・1.登録免許税

以下の各登記をする際に登録免許税がかかります。

(1)土地の所有権移転登記
税率は2.0%(2026年3月31日までは軽減税率1.5%)。

(2)建物の所有権移転登記
税率は2.0%(住宅用家屋の所有権移転登記は軽減税率0.3%)。

(3)抵当権設定登記
税率は、固定資産税評価額の0.4%(住宅ローンは軽減税率で固定資産税評価額の0.1%)。

(4)抵当権抹消登記
税額は、不動産1件ごとに1,000円(土地付き建物は2件として計算するため2,000円)。

・2.譲渡所得税

譲渡所得税には、「短期譲渡所得税」と「長期譲渡所得税」の2種類あります。

短期譲渡所得税は不動産を売却した年の1月1日時点で、所有期間が5年以下の場合に適用されます。

税率は所得税が30.63%(2.1%の復興特別所得税を含む)、住民税が9%で合計39.63%となっています。

税率が高いのは短期の転売目的で売却する人がいるためです。

長期譲渡所得税は不動産を売却した年の1月1日時点で、所有期間が5年を超えている場合に適用されます。

税率は所得税が15.315%(同)、住民税が5%で合計20.315%となっています。

税率の差が大きいので、できれば5年を超えた不動産を譲渡したほうが良いでしょう。

・3.不動産取得税

不動産取得税は地方税で、都道府県に納税します。

税率は、店舗・事務所など住宅以外の建物は固定資産税評価額の4.0%、土地・住宅用の建物は軽減税率が適用され、固定資産税評価額の3.0%となっています。

・4.印紙税

不動産売買契約書などに、売買代金によって以下の金額の収入印紙を貼付して納税します。

印紙税税額表(不動産)

記載された契約金額 税額
1万円未満 非課税
10万円以下 200円
10万円を超え50万円以下 400円
50万円を超え100万円以下 1,000円
100万円を超え500万円以下 2,000円
500万円を超え1,000万円以下 1万円
1,000万円を超え5,000万円以下 2万円
5千万円を超え1億円以下 6万円
1億円を超え5億円以下 10万円
5億円を超え10億円以下 20万円
10億円を超え50億円以下 40万円
50億円を超えるもの 60万円
契約金額の記載のないもの 200円

親族間売買の諸費用と税金に関しては、ケースによってかからないものもあります。

また、手続きを司法書士に依頼する場合は、司法書士報酬がかかります。

不動産の親族間売買をおこなう場合の注意点

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親族間売買は、一般の不動産取引とは異なる注意点があります。

親族への売却だからこそ気を付けたい、以下の3つのポイントを押さえたうえでおこなうことが大事です。

1.契約書は必ず作成する

親族間で契約する場合でも必ず売買契約書を作成しましょう。

契約書があれば税務調査が入った場合でも、売買した価格を明確に示すことができます。

また、相続が発生した際にも、すでに譲渡した不動産がどれくらいの価格だったのかを確認できるので、トラブルの防止にもなります。

2.他の相続人の同意を得ておく

親族間とはいえ、不動産の売買をおこなうときはいずれ相続人になる親族の同意を得ておこなうようにしましょう。

その理由は、不動産の譲渡をおこなうと相続財産に変化が生じるからです。

後でトラブルにならないように事前に親族会議を開いて、全員が納得したうえで譲渡を決めることが大切です。

3.わからないことがあれば専門家に相談する

不動産の売買は法務や税務も絡むことから、不明な点がある場合は自分で解決しようとはせず、不動産会社や司法書士、税理士など専門家に相談するようにしましょう。

そのほうが失敗やトラブルが少なく、手続きがスムーズに進みます。

実際に手続きを依頼する場合は、不動産の売買や引き渡しなどに関しては不動産会社、不動産の登記など法務に関しては司法書士、譲渡所得税など税務に関しては税理士に依頼します。

まとめ|親族間売買でも不動産会社に仲介を依頼した取引がおすすめ

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親族間売買は身内同士のやり取りなので、自己売買で簡単にできると思いがちです。

しかし、実際には売買価格の決定などでトラブルになるケースもあります。

加えて契約書の作成や重要事項の説明など手間のかかることもあるので、不動産会社に仲介を依頼したほうがスムーズに売買を成立させることができます。

仲介手数料はかかりますが、第三者である不動産会社が仲介することで、親族間売買で問題になる「みなし贈与」とみなされる可能性は低くなります。

契約書や重要事項説明書なども作成してくれるので、きちんとした書類が残る点でも安心です。

親族間売買だからこそ、第三者が見た客観的な売買条件の取り決めが必要です。

愛着のある自宅を親族にスムーズに譲渡できるようにするためにも、しっかりと準備することが求められます。

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丸山優太郎
丸山優太郎(著者)
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。企業系サイトを中心に執筆し、得意執筆領域は金融・経済・不動産。市場分析や経済情勢に合わせたトレンド記事を、毎年約200本執筆している。主な掲載媒体は「YANUSY」「THE Roots」「Dear Reicious Online」「auじぶん銀行お金のコラム集」「ZUUonline」など。