生前贈与にはさまざまな特例や優遇措置があります。
そのなかの1つである「住宅取得資金贈与の非課税」は、節税メリットの大きい魅力的な仕組みといえます。
しかし、この制度を活かして節税効果を発揮するためには、制度をしっかりと理解し、漏れや不備などがないようにしなければなりません。
本記事では、住宅取得資金贈与の非課税について、タイミングをはじめとする注意点について解説します。
- 住宅取得資金贈与の非課税に関する基本的な情報
- 制度を利用するために注意しなければならないタイミングがわかる
- タイミングを間違えてしまったときの対処法がわかる
目次
住宅取得資金贈与に関する非課税制度とは
まずは、住宅取得資金贈与に関する非課税制度の概要について解説します。
住宅取得資金贈与に関する非課税制度とは、直系尊属(両親、祖父母など)から住宅を取得するために資金を贈与された場合、一定の要件を満たせば贈与税が非課税となる制度です。
これは、若年層の住宅取得を支援し、国民の居住の安定を図ることを目的としています。
非課税となるには、以下の条件を満たしている必要があります。
主な適用条件 |
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・ 受贈者(贈与を受ける人)の年齢が18歳以上50歳未満であること ・ 受贈者の合計所得金額が2,000万円以下であること ・ 取得する住宅の床面積が50m²以上240m²以下であること ・ 贈与を受けた年の翌年3月15日までに係る契約を締結すること |
また、非課税には限度額があります。
限度額は以下のとおりです。
非課税限度額 |
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・ 耐震、省エネ、バリアフリーの住宅:1,500万円 ・ 上記以外の住宅:1,000万円 |
そして、対象となる住宅の範囲は以下になります。
対象となる住宅の範囲 |
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・ 新築住宅の取得 ・ 中古住宅の取得 ・ 増改築等 ・ 住宅の新築等に係る土地の取得 |
直系尊属からの住宅取得資金贈与に関する非課税制度は、住宅取得を検討している人にとって大きなメリットとなります。
しかし、非課税の要件は厳格でタイミングを逃すと適用されないことを覚えておいてください。
住宅取得資金贈与の非課税はタイミングが重要
ここでは、さらに詳しく住宅取得資金贈与の非課税を説明します。
そして、この制度を利用するにはタイミング重要であることも詳しく解説します。
1.住宅取得資金贈与の非課税について
「住宅取得資金贈与の非課税」は、正式には「住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税」といいます。
直系尊属(親や祖父母など)から子や孫へ住宅取得のための資金を贈与した場合、省エネ等住宅であれば1,000万円、それ以外の住宅であっても500万円を上限に、贈与税が非課税になる特例です。
贈与税には毎年110万円の基礎控除があるため(暦年贈与の場合)、年間で110万円までの贈与については非課税です。
それに比べるとこの特例は省エネ住宅だと1,000万円もの金額を非課税で贈与できるため、該当する人にとっては非常にメリットの大きな制度です。
また、住宅取得資金贈与の非課税は、通常の暦年贈与による基礎控除と併用することができます。
つまり、毎年110万円の基礎控除に加えて省エネ住宅の1,000万円を足すと、1,110万円までの贈与が非課税になります。
2.住宅取得資金贈与の非課税が適用されるための条件
住宅取得資金贈与の非課税が適用されるには、いくつかの条件があります。
住宅の仕様などについては多くの要件がありますが、ここでは特に重要な条件のみ紹介します。
・ 直系尊属からの贈与であること
・ 受贈者の事故居住用の住宅であること
・ 贈与を受ける年の1月1日時点で、受贈者が18歳以上であること
・ 親族や配偶者などの関係者から取得した住宅ではないこと
・ 贈与を受けた翌年の3月15日までに住宅の新築や取得、居住を完了していること
これらのほかにも細かい要件が定められているので、詳しくは国税庁のホームページなどをご参照ください。
国税庁:直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
3.住宅資金を贈与するのは住宅の取得前であること
住宅取得資金贈与の非課税を適用するためには、贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅の新築や取得を完了し、居住を開始していなければなりません。
どうしても居住開始が3月15日に間に合わない場合は特例的に期間を延長することができます。
ただし、原則として3月15日に間に合わせることが必須であると考えておいたほうがよいでしょう。
4.居住開始のタイミングは贈与翌年の3月15日まで
「贈与を受けた翌年の3月15日」がとても重要な意味を持っていることがおわかりいただけたと思います。
この3月15日までに住宅の取得を完了している必要があることに加えて、贈与を受けた人が居住も開始していなければなりません。
仮にこの日までに居住を開始できていなかったとしても、そこに居住することが確実であることが見込まれる状況でなければなりません。
住宅の取得や新築が完了しているのであれば居住を開始することも可能なわけで、それらがすべて完了して初めて住宅取得資金贈与の非課税が適用されます。
5.税務申告のタイミングも贈与翌年の3月15日まで
住宅取得資金贈与の非課税に限らず、税の特例や優遇などを受ける場合は確定申告が必要です。
確定申告の期限は翌年の3月15日までとなっており、贈与税も同様です。
これらの情報を総合すると、住宅取得のための資金を贈与し、その住宅を取得して居住を開始、そして申告までを3月15日までに完了する必要があるということです。
ここで紹介した順序は一般的な流れだと思いますが、住宅取得資金贈与の非課税の適用する場合も、この順序でなければなりません。
贈与のタイミングで注意したい5つのこと
住宅取得資金贈与の非課税を利用するには「タイミング」がとても重要です。
ここでは、タイミングに関して注意点を5つ解説します。
1.新築やリフォームの工事遅れ
住宅の新築やリフォームに用いる費用を贈与された場合、その住宅は翌年の3月15日までに工事が完了し、居住開始できる状態でなければなりません。
しかし、近年では人手不足や材料価格の高騰によって工事が遅れることも珍しくありません。
当初の予定では3月15日に間に合うスケジュールだったとしても、工事の遅れによってタイミングを逸してしまう可能性は十分あります。
贈与税の非課税適用を前提にした住宅の取得である場合は、工事の遅れも考慮に入れて早めに行動したいところです。
2.新築マンションの引き渡しタイミング
戸建て住宅であれば工事の遅れなどについてある程度の融通が利くかもしれません。
しかし、新築マンションなど集合住宅の場合はそれが難しいこともあります。
新築マンションは手付金を支払って購入の手続が完了していても、物件の引き渡しまで一定の時間を要します。
この期間が長くなることによって、3月15日のタイミングに間に合わないといった事態も考えられます。
集合住宅の工事については事前にスケジュールが組まれているので、引き渡しがいつになるのかを事前に確認しておきましょう。
3.年末時期の贈与は特に注意
年末になると、税金対策のために住宅取得資金贈与を考える人は多くなるかもしれません。
しかし、年末の時期から居住や申告の期限である3月15日までは3ヶ月ほどしかありません。
あまり時間がないことを踏まえて、年末時期に贈与をするのであれば、3月15日までに居住を開始できることを先に確定させておきましょう。
3月15日までに間に合わなければせっかくの贈与が非課税にならない恐れがあります。
3月15日に間に合わない見通しなのであれば、その年は贈与税の基礎控除である110万円の範囲で贈与をして、住宅資金の贈与は翌年にすることも検討するべきでしょう。
4.居住の開始の定義
先ほどから用いている「居住の開始」とは、どのような状態を指すのでしょうか。
一般的な認識として受贈者を含む家族が実際に居住を開始し、その住宅に住民票を移動したときを「居住の開始」と見なします。
住民票を移動すると役所はそこに住んでいると認識すると思われがちですが、それだけだと居住している実態がないと見なされる可能性があります。
「居住+住民票」が必要であると考えておきましょう。
タイミングを間違えたときの対処法
タイミングを間違ってしまったときはどうすればよいのでしょうか。
ここでは、贈与のタイミングを間違えてしまったときの対処法を4つ解説します。
1.3月15日までに居住開始できないとき
贈与を受けて住宅の取得を進めてきたものの、3月15日の期限までに居住を開始できない場合は、最大でその年の12月31日まで適用の延長を認められることがあります。
そのためには、すでに手付金を支払って住宅の取得に関する契約が完了している必要があります。
さらに入居するための準備を進めているなど、居住開始の時期が遅れているだけで居住することが確定しているという事実が必要です。
ただし、その場合であっても住宅の取得は3月15日までに終えている必要があり、その住宅での「居住の開始が遅れているだけ」という場合のみ有効です。
2.贈与を受けた本人の居住開始が間に合わないとき
原則として受贈者本人が3月15日までに居住を開始している必要があります。
しかし、何らかの理由で本人の居住開始が間に合わない場合、生計を共にする家族が居住を開始しており、追って本人の居住開始も見込まれるのであれば有効です。
3.12月31日にも居住開始できないとき
居住開始が3月15日に間に合わない場合は、最長でその年の12月31日までに居住を開始すれば有効であることは先にと述べました。
この12月31日も間に合わない場合は、残念ながら住宅取得資金贈与の非課税は適用されません。
この場合は同制度の非課税枠がなくなるため、修正申告をして贈与税を納めることになります。
4.贈与を受けたが住宅の取得が難しいと判断したとき
住宅取得のための資金を贈与されたものの、住宅の取得が難しい見通しとなった場合は、すみやかに受贈者が贈与者に資金を返却するのが得策です。
資金の贈与を受けたものの住宅取得に使うことなく、そのまま全額を返金したということであれば、原則として贈与税は発生しません。
仕切り直しをしたうえで家探しをして、住宅の取得が見込まれる段階で改めて贈与をするようにすれば、非課税メリットをいかすことができます。
住宅取得資金贈与の非課税についてよくある質問
最後に、住宅取得資金贈与の非課税についてよくある質問と、その答えをまとめました。
Q1.配偶者の親から贈与を受けた場合は適用されますか?
住宅取得資金贈与の非課税は直系尊属からの贈与にのみ適用されるため、「義理の親」からの贈与では適用されません。
なぜなら、配偶者の親は、婚姻関係によって「義理の親」になっているだけであって、法律が定義する直系尊属ではないからです。
ただし、配偶者の親と養子縁組をした場合は、「義理」ではなく本当の親になります。
つまり直系尊属となるため、住宅取得資金贈与の非課税を適用することができます。
Q2.3月15日に居住開始できない場合、居住の見込みはどう判断されますか?
3月15日に居住開始が間に合わない場合は、同じ年の12月31日まで延長認められるわけですが、「居住の見込み」は、以下のような状況で総合的に判断されます。
・ 手付金を支払って住宅取得に関する契約を完了している
・ すでに工事が始まっている
・ 棟上げが完了している
これらの客観的な事実があれば認められる可能性が高く、住宅取得資金贈与の非課税の適用を前提に贈与税の申告をするのが一般的です。
Q3.手付金も非課税の対象になりますか?
予定どおり住宅の取得を完了した場合、手付金は住宅資金に要する費用の一部です。
予定どおりに住宅の取得を完了できるのであれば手付金も住宅取得資金であるとして非課税枠に含右手もよいと思いますが、注意したいのは手付金を支払ったものの住宅を取得できない事態です。
この場合、手付金は支払っているのに住宅を取得できていないので、非課税は適用されません。
先ほど解説したように、資金の贈与は住宅の取得が確定してからのタイミングでおこなうのがよいでしょう。
Q4.贈与金の全額が非課税になるのであれば申告は不要ですか?
贈与した資金の全額が非課税になるのは、住宅取得資金贈与の非課税を適用しているからです。
こうした特例を適用するためには確定申告が必要なので、贈与税がゼロになるからといって申告が不要になるわけではありません。
むしろ特例を適用するために申告が必要であると認識しましょう。
まとめ
控除される金額が大きいため、節税効果も大きい住宅取得資金贈与の非課税です。
相続対策の一環で活用したいと考えている人には魅力的な特例ですが、スムーズにこの特例を適用するために重要なのがタイミングです。
贈与のタイミング、住宅取得のタイミング、居住開始のタイミング、そして申告のタイミングと、これらのタイミングをしっかりと理解しておきましょう。
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