運用の理想は、リスクをコントロールしながら、リターンを最大化することでしょう。金融商品はハイリスクハイリターンです。
普通は高リターンを狙うとリスクも上がります。リスクを減らすための基本が分散投資です。
運用資産が同じ動きをしないようにすることで、リスクは下げられます。分散投資で大切なことを解説しましょう。
分散投資とは
分散投資はリスクを限定的にしながら、いかに投資効果(リターン)を高めるかという、運用における最大の課題を解決するための、今考えられる最善の方法です。
リスクを減らすなら、極端な話、全部貯金や現金にすればリスクはゼロです。ただ、リターンは期待できません。運用している以上、投資家でリターンはいらないという人はいないでしょう。
資産運用には、少しでも期待リターンを高めながら、低リスクにしたいというニーズがあります。そのニーズにこたえるためには分散投資です。
日本株投資でトヨタと日産とホンダを買った場合、これは分散投資とは言いません。単なるポートフォリオの一部です。
基本的に大小の差こそあれ、トヨタと日産とホンダは、業績も株価も同じ方向に動くことが多いからです。
分散投資とは、違う動きをする金融商品を組み合わせること。なにかの大きなリスクが起きたときに、持っている商品が全部売られて損失が一方的に拡大することを防ぐことが分散投資です。
自動車の例だと、米国の自動車メーカーとしてテスラを買うことが国の分散投資の第一歩。
さらに言うと、国を分散しても自動車銘柄ではやはり同じような動きをすることが多いので、不況時に強い食品メーカーで日本のJR東、アメリカで薬品大手ファイザーを買いました。これこそが分散投資の考え方の基本です。
分散をしたら理論的にはリターンも悪くなります。上がる商品だけ買って集中投資しておけばいいのでは?と思うかも知れません。
しかし、スゴ腕投資家ならいざ知らず、プロでも、来年は、5年後は、10年後はどの資産が一番上がっているかと予想することは容易ではありません。運用は大きな損失をだしたら取り戻すのは大変です。
1,000万円運用していて2割下がったら800万円です。800万円と1,000万円に戻すには2割ではだめです。
25%上昇しなくては戻りません。損が膨らむほど元本を取り戻すのは大変になります。だからこそ、大事なお金の運用では博打のような投資はせず、リスクコントロールすることが常識なのです。
分散投資が大切な理由3つ
分散投資にはどのような意義があるのでしょうか。その理由を説明します。
1.分散して投資することで投資リスクを低減
伝統的資産と言われる株と債券で考えてみましょう。景気上昇局面では企業業績が上昇し、株価が上がることが多いでしょう。
景気がいいときは金利が上がりやすいので債券は下がります。景気下落局面では企業業績が停滞し、株価が下がることが多いです。
しかし、金利が下がるので債券は上がります。違った商品を組み入れるとリスクヘッジが効くのです。
このように、違う動きの商品を組み合わせながら、期待リターンを下げないようにリスク管理するのが分散投資のメリットです。
主要な資産の期待リターンとリスク(変動の大きさ)をプロットしたのが(図1)です。縦軸は期待リターンです。上に行くほど高リターンが期待できる商品で株式が代表です。
横軸はリスクです。右に行くほどリスクが高まります。リスクが低いのは債券が代表です。
こういった商品を組み合わせることで、期待リターン値を保ちながらリスクを減らします。その分散投資の比率を決めることを資産配分(アセットアロケーション)と言います。
アセットアロケーションについては重要ですので、後で詳しく説明します。
(図1)主力金融商品の期待リターンと推計リスク
2.長期の運用はリターンが安定化する
分散投資というと、株と債券のように商品間の分散が頭に浮かぶと思います。しかし、国や地域、時間的分散も、分散効果が高いです。
つみたて投資の投資効果が高いのは、時間分散を極めた投資方法なので、リスクを低減できるからです。
国内株、海外株、国内債、外債の4つの伝統的資産(アセットクラス)を投資した場合の保有期間によるリターンの分布状況(図2)をみてください。
ポートフォリオの1年目はいい年は38%も上がりましたが、悪い年は31%も下がりました。10年保有したらいいときは11%上がりました、悪いときでもほとんどロスはありません。
長ければ長いほど、リスクは減少しリターンが安定化します。長期つみたての資産形成は時間の分散という分散投資の典型なのです。
(図2)
3.大きな損失を避けることができる
投資には「卵は1つのカゴに盛るな」という格言があります。卵を同じカゴに入れると落とした場合、全部割れてしまいます。1つの商品しか保有していないと全滅することがあるという意味です。
しかし、米国株だったり、日本株だったり、債券だったり、不動産だったり、多くのカゴを持っていれば、1つのカゴを落としたとしても、4分の1のロスにしかなりません。全滅が避けられるのです。
これが分散投資によるリスクコントロールです。(図3)運用のコツは大きな損を避けることでもあります。
(図3)分散投資のイメージ 「卵は1つのカゴに盛るな」
分散投資の代表的な方法3つ
分散投資の方法にはどのようなものがあるのでしょうか。代表的なものを3つ紹介します。
1.国や地域で分散投資をする
米国が好景気でも日本はさえない、日本は好調でも中国はよくないということはいくらでもあります。
分散投資でまず考えるのは、国や地域の分散でしょう。地域では、欧州、アジアという分類のほかにも、先進国と成長性が高いが変動も大きい新興国という分類もあります。
日本だけに投資していたら、バブル崩壊後の「失った30年」の投資効果は厳しかったのではないでしょうか。
いくら日本が平成バブルのときでも分散投資を考えて、米国株にも投資していればリスクヘッジ以上の効果が発揮できたはずです。
2.金融商品で分散投資する
株、債券といった伝統的資産(アセットクラス)もあります。(図1)のように、不動産投資と同様の効果があるREITなども組み入れる投資家が増えています。
それぞれ、どういうときにリターンが上がり、どういうときにリスクが高いかを考えて分散する必要があります。
今は低金利で運用難です。機関投資でさえ、少しでも高いリターンと分散投資によるリスク低減を求めて、株や債券の伝統的資産だけでなく、不動産、ヘッジファンドなどのオルタナティブ投資の比率を上げています。オルタナティブ投資は大事なので後章で詳しく説明します。
3.時間で分散投資をする
金融商品には上がることも下がることもあります。どんなに上げる商品でも、一直線に上げ続けることはありません。上昇相場での調整期間もあります。
何度かに分けて買うことで、買うタイミングの分散ができます。時間の分散です。つみたて投資は究極の時間分散です。
(図4)
アセットアロケーションとは
資産クラス(アセットクラス)には伝統的資産といわれる国内株式、海外株式、国内債券、海外債券のほかに、不動産、コモディティ、ヘッジファンドなどオルタナティブ資産もあります。現金や預貯金も対象です。
異なるリスクやリターンの特性を持つアセットを分類し、投資家の目標やリスク許容度などに応じた最適に配分します。
それからポートフォリオのリスクとリターンのバランスをとることを目標にするのがアセットアロケーションです。簡単に説明していきます。
1.アセットアロケーションは年齢・運用期間・リスク許容度によって違う
運用する上で大切なのは、運用の目的、ゴールとなる金額と期間などを決め、それに応じた投資方針を持つことです。
アセットアロケーションは、投資方針にそってどのように配分するか決めることです。運用の中でも非常に大事だとされています。
リスクをとっても長期で時間的分散が出来る若者と、ゴールが近くてそれほど長期運用ができない高年齢層とでは資産配分は違ってくるでしょう。
(図5)アセットアロケーションの考え方
2.アセットアロケーションは銘柄選択より大事
資産配分は、アセット内での銘柄選択より重要だと言われます。
トヨタと日産のどちらに投資するかといった銘柄選択は重要ではあります。
しかし、アセットアロケーションで、当面米国株の方がよさそうだと思って、米国株に資産配分するならば、テスラを買うかも知れません。
トヨタと日産のパフォーマンスの差より、トヨタとテスラのパフォーマンスの差の方が大きかったとしたら、資産配分の勝利です。
アセットアロケーションが大事なことがよくわかる例として、グローバルな機関投資家の運用方法を教えます。会社で運用部門の最上位に君臨するのがアセットアロケーションのチームです。
今の世界の景気動向、金利動向、為替動向、企業業績などのファンダメンタルズをしっかり分析して、アセットアロケーションのチームが、米株を30%、日本株20%、欧州株10%、中国株5%、米国債15%、日本国債10%、不動産10%などと決めます。それが会社の運用方針になるのです。
その後は運用資産をそれぞれの比率で、米株運用チーム、日本株運用チームなどに配分します。
それぞれのチームはその資金の中で運用しますが、最初の完全にトップダウンの運用スタイルです。これは、過去の経験で、同資産の中の銘柄ピックより、アセットアロケーションの方が、パフォーマンスへの影響が高いことが解っているからです。
3.アセットアロケーションはリバランスが必要
株の上昇局面が続くと、最初に決めた資産配分から株の比率が大きく上がってしまうことがあり得ます。
ふと気がついたら株に比率が上がりすぎていたら、保有資産のリスクは当初想定したよりも拡大していることになります。
定期的に最初の配分と今の配分の変化をチェックし、必要なら比率を戻す作業が必要です。上がった資産を少し利益確定し、下がっている資産などに振り分けるのです。これがリバランスといいます。
長期運用では、アセットアロケーションが重要です。その方針に従いながらも、商品のパフォーマンスや経済環境の変化を見極めながらアロケーションを調整していくことも必要です。
機関投資家はだいたい四半期(3ヵ月)ごとにリバランスすることが多いです。比率が上がりすぎた資産は自動的に売り、下がりすぎた資産は自動的に買います。
たとえば、最初の配分で株と債券が50%ずつだったのが、株があがったため、3ヵ月後に株が60%、債券が40%になったとします。
この機関投資家はこの四半期末に自動的に株を5%売り、債券を5%買い、期待リターンと推定リターンを元来のアロケーションに戻すのです。
GPIFに見る典型的なアロケーション
日本の公的年金である国民年金を運用しているのは年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)です。年金運用としては世界一の規模です。
世界一の長期運用ファンドがどのようにアセットアロケーションをしてどのようにリスク分散しているかが、資産運用の参考になります。
GPIFの基本ポートフォリオの考え方
長期的な運用においては、短期的な市場の動向により資産構成割合を変更するよりも、基本となる資産構成割合を決めて長期間維持していくほうが、効率的で良い結果をもたらすことが知られています。
このため、各資産の期待収益率やリスクなどを考慮したうえで、積立金の基本となる資産構成割合(基本ポートフォリオ)を以下のように定めています。(図6)
(図6)GPIFの基本ポートフォリオ
GPIFの基本ポート:日本株25:日本債25:外株25:外債25%
アセットクラスは、国別で日本と海外に分散、さらに資産別で株と債券に分け、それぞれを基本25%としています。
ただ、資産毎の騰落があるので、株が大きく上がったときには資産に占める株の割合は自動的に上昇してしまいます。そのため、基本の25%に対し資産毎にバッファー(許容範囲)があります。
日本株の場合25%からプラスマイナス8%です。つまり、日本株の組入比率は17〜33%となります。
加えて、基本ポートフォリオ、バッファーは、投資実績、経済の状況などによって経営委員会で見直しています。これが日本の年金の運用方針になるのです。
伝統的資産にオルタナティブを加えるのがトレンド
世界的な金利低下局面が続き、インカムゲインが低下したため長期の年金運用も運用難の時代です。株、債券といった伝統的なアセットクラス以外に高インカムゲイン、高リターンを上げる金融資産への投資が増えつつあります。
こうした、不動産、ヘッジファンド、為替、商品、仮想通貨、プライベートエクイティ(未上場企業)などへの投資をオルタナティブ投資といいます。(図7)
オルタナティブ資産は、伝統的な投資対象である上場株式、債券とは異なるリスク・リターン特性を有しています。リスク分散に適しているのです。
(図7)GPIFが投資しているオルタナティブ資産
まとめ
資産運用、特に長期の資産運用では、いかに分散投資、アセットアロケーションが大切かご理解いただけたのではないでしょうか。
分散投資は簡単ではありません。分散投資している投資信託などファンドを買う手もあります。
どうしても短期投資もしたいなら、長期投資の枠と短期投資の枠をわけて、損してもいい額を決めて資産配分してみてはいかがでしょう。