祖父母が孫への深い愛情を財産という形で残そうと考えるのは自然なことです。
しかし、相続税の負担や法的な手続きなど具体的な方法となると簡単ではありません。
特に、孫への遺産の正しい移転方法や税金の軽減策についての情報は複雑であり、どれが最適なのかを見極めるのは容易ではありません。
本記事では、孫へ遺産を相続させる4つの方法と相続税を軽減させる方法について詳しく解説します。
これから孫へ遺産の相続を検討されている方は、ぜひ参考にしてみてください。
遺産を孫に渡す方法は4つ
遺産を孫に確実に渡す方法に関心のある方は少なくありません。特に、直接の子どもではなく孫への愛情や、財産管理の観点から大切なテーマです。
ところが、適切な方法を選択しなければ予期せぬ税金の負担や家族間のトラブルにつながる可能性があります。
そうならないためには、以下の4つの方法を検討してみましょう。
遺産を孫に渡す方法は4つ |
1.孫に遺贈する遺言書を準備する 2.孫に生前贈与する 3.孫と養子縁組をする 4.代襲相続をする |
ここでは、孫に遺産を効果的に渡すための4つの方法について、特徴や注意点を解説します。
1.孫に遺贈する遺言書を準備する
孫に遺贈するためには遺言書の準備が必要です。
遺言書には、自筆証書遺言と公正証書遺言の2つの主要な形式があります。自筆証書遺言は、全文、日付、氏名を自筆で記載し、署名する必要があり、証人は不要です。
これに対して、公正証書遺言は公証人と証人2名の立ち会いのもとで作成されます。公正証書遺言は、形式の誤りによる無効のリスクを減らせるため、より確実性が高いです。
2020年7月からは、自筆証書遺言を法務局に保管する制度がスタートし、紛失や偽造のリスクを減らせるようになりました。
遺言書を作成する際には、特定の財産を孫に遺贈する内容を明確に記述するように心がけてください。
例えば、「私の所有する〇〇市〇〇町の土地と建物を孫の〇〇に遺贈する」といった具体的な記述が必要です。
また、遺言による遺贈は、法定相続人の遺留分を侵害しないよう注意しましょう。遺留分とは、法定相続人が最低限受け取ることが保証されている相続分です。
遺言での遺贈が遺留分を侵害している場合、遺留分減殺請求を受ける可能性があります。孫に財産を確実に渡すためには、遺留分に配慮しつつ、適切な遺言書の作成に努めましょう。
出典:法務省 自筆証書遺言書保管制度について
出典:国民生活センター 自筆証書遺言を法務局で保管する制度がスタート
2.孫に生前贈与する
遺産を早めに孫に渡す「孫への生前贈与」の大きなメリットは、贈与することで相続税の節税が期待できる点です。
特に、毎年の贈与税の非課税枠(現在は110万円)を利用すれば、大きな財産を少しずつ孫に移転できます。
しかし、生前贈与には注意点もあります。大量の財産を一度に贈与すると贈与税が高額になる恐れがあるため、非課税枠の範囲内での計画的な贈与がおすすめです。
また、贈与した財産は将来的に孫が受け取る遺産の一部とみなされ、相続時の財産評価に影響を与える場合があるため、全体の相続計画の一環として考慮しましょう。
さらに、生前贈与は相続争いの原因となることもあるため、家族間での十分な話し合いが必要です。
贈与する際には、将来の税金の負担や家族関係の変化も考慮しながら、専門家のアドバイスを得て慎重に進めてください。
出典:国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
3.孫と養子縁組をする
孫を養子にして、孫を法定相続人にする方法があります。
孫が法定相続人になれば、孫は遺産を直接相続できるようになります。孫養子とすることの最大のメリットは、相続税の基礎控除額を増やせる点です。
相続税の基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されるので、養子を増やせばその分相続税を軽減できます。
ただし、養子にする孫の数には限りがあり、実子がいる場合は養子を1人まで、実子がいない場合は2人までという制限があります。
また、孫を養子にした場合、相続税が2割加算される点にも注意が必要です。
養子縁組を検討する際には、節税目的が明らかな場合、税務上の問題が生じる可能性があるため、なるべく専門家のアドバイスを受けましょう。
養子縁組は、相続税の節税だけでなく、家族としての絆を強化する意味もありますが、他の相続人との間で遺産分割に関するトラブルが発生する可能性もあるため、家族全員で十分な話し合いを行ってください。
4.代襲相続をする
代襲相続は、本来の相続人が亡くなっている場合に、その相続人の子ども(孫など)が相続権を引き継ぐ制度です。
この制度を利用すれば、孫が直接遺産を相続できます。代襲相続においては、孫がその親(被相続人の子)の相続分をそのまま引き継ぐため、相続税の計算上も本来の相続人と同等の扱いを受けます。
代襲相続は、予め計画することは難しく、あくまで相続が開始された後の事情によって生じる可能性のある制度です。
このため、相続計画を立てる際には、代襲相続に頼るのではなく、遺言書の作成や生前贈与など、他の方法も検討しておきましょう。
代襲相続が発生した場合、孫などの代襲相続人は、相続税の計算において法定相続人としての地位を有しますが、相続税の基礎控除額に変更はありません。
また、代襲相続を通じて相続する場合、遺産分割協議において他の相続人との間で意見の対立が生じる可能性もあるため、遺産分割に関しては専門家のアドバイスを受けながら進めると安心です。
孫が遺産を相続する場合の割合は方法によって変わる
遺産相続において、孫が相続人となる場合、どのような方法を選択するかによって課せられる相続税の額が異なります。
ここでは、代襲相続と養子縁組について、孫が相続する場合の割合について解説します。
代襲相続でした場合
代襲相続は、被相続人の子が亡くなっている場合に、孫がその相続権を引き継ぐ制度です。この場合、孫は法定相続人として扱われ、亡くなった親の相続分をそのまま受け継ぎます。
例えば、被相続人に配偶者と子が1人(亡くなっている)と孫がいる場合、通常、配偶者が遺産の半分を、残りの半分を子が相続しますが、子が亡くなっている場合はその分を孫が相続します。
代襲相続では、相続税の2割加算の対象外ですので、孫にとっては税負担の軽減が利点です。
しかし、複数の孫がいる場合は、亡くなった親の相続分を等分に分ける必要があり、それぞれの受け取る割合が少なくなる可能性があります。
代襲相続をスムーズに行うためには、遺言書に具体的な指示を記載しておきましょう。また、相続人全員で相続の内容について話し合い、遺産分割協議を行うことが大切です。
養子縁組でした場合
養子縁組によって孫を養子にすれば、孫は法定相続人としての地位を得て、実子と同等の相続権を有するようになります。
この場合、相続税の基礎控除額が増加し、結果的に相続税の負担軽減が可能です。しかし、養子縁組にはいくつかの注意点があります。実子がいる場合、養子にできる孫は1人までです。
また、孫が養子となった場合、受け取る相続財産に対して2割加算の税金が課せられることもあります。ただし、この2割加算は代襲相続の場合には適用されません。
養子縁組後も、実子や他の相続人との間で遺産分割に関するトラブルが生じる可能性があるため、可能であれば事前に家族間で話し合い、遺言書に具体的な分配方法を記載しておきましょう。
養子縁組は相続税の節税対策として有効な手段の一つですが、長期的な家族関係の調和も考慮に入れた上で慎重に進めるべきです。
孫が相続したときにかかる税金3つ
一般的に、相続に伴う税金の問題は複雑で、しばしば悩みの種となります。特に孫が相続人となる場合、適用される税金の種類や計算方法の正確な理解は必須です。
孫が相続する際に課せられる可能性のある主な税金は次のとおりです。
孫が相続したときにかかる税金3つ |
1.相続税 2.贈与税 3.不動産の場合は「不動産取得税・登録免許税」 |
ここでは、孫が相続したときにかかる税金について解説します。
1.相続税
相続税は、故人が残した財産を受け継ぐ際にかかる税金です。
相続税の計算は、相続財産の総額から各種控除(基礎控除、特定の控除など)を差し引いた後の金額に対して行われます。
基礎控除額は、2024年現在、「3000万円+(600万円×法定相続人数)」です。
法定相続人の数が多ければ多いほど、相続税の基礎控除額は増加し、実際に納税する金額は減少します。孫が相続人となる場合でもこの原則は変わりません。
ただし、相続税の申告と納付は期限内に正確に行う必要があり、遺産分割協議書などの書類も不備なく用意しましょう。
相続税の計算は複雑であるため、不安があれば税理士などの専門家にご相談ください。
2.贈与税
贈与税は、生前に財産を無償で譲り受けた場合にかかる税金です。
孫への贈与もこの税金の対象となりますが、年間110万円までの贈与は基礎控除の対象となり、贈与税は発生しません。
贈与税の控除を利用して、時間をかけて資産を移転すれば、相続時にかかる税負担を軽減することも可能です。
しかし、110万円を超える贈与には贈与税が課税されるため、贈与の計画を立てる際にはこの点を考慮する必要があります。
また、贈与税の申告は受贈者が行う必要があるため、孫自身がこの責任を負うことになります。適切な申告と納税を行うためには、贈与の記録をしっかりと保管しておきましょう。
出典:国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
3.不動産の場合は「不動産取得税・登録免許税」
祖父母が孫に不動産を相続する際には、相続税だけでなく不動産取得税や登録免許税といった税金にも考慮しましょう。
不動産取得税・登録免許税は、通常、不動産の相続が確定した後に発生します。
不動産取得税は、不動産を取得した際に地方自治体に支払う税金で、その不動産の価値に応じて計算されます。
通常、不動産の取得価格または評価額の数パーセントが税率として適用されますが、相続による取得の場合、特例により軽減されることもあります。
一方、登録免許税は、不動産の名義変更を行う際に国に支払う税金です。
不動産の相続に伴う名義変更もこの税金の対象となりますが、相続の場合は通常の取得時よりも税率が低く設定されているため、相続による不動産の登記は比較的負担が少なくなります。
例えば、相続による不動産の登録免許税の税率は0.4%であり、遺贈や死因贈与による取得では2.0%になることが多いです。
不動産の相続に際しては、相続税の計算だけでなく、不動産取得税や登録免許税の計算も必要になるため、複雑な計算が求められます。
孫にかかる相続税を軽減させる方法5つ
祖父母が孫に資産を残す際にかかる相続税は、計画的な対策を講じなければ、予想以上に重い負担となります。
孫がかかる相続税を軽減させる方法5つ |
1.「特例贈与」を利用 2.「教育資金の一括贈与」を利用 3.「結婚・子育て資金の一括贈与」を利用 4.「住宅取得資金贈与」を利用 5.「相続時精算課税制度」を利用 |
相続税を軽減させる代表的な方法は次のとおりです。ここでは、孫への相続税負担を軽減させる具体的な方法について詳しく解説します。
1.「特例贈与」を利用
特例贈与を活用すれば、祖父母から孫への贈与税の負担が軽減されます。
特例贈与は、18歳以上の孫に対して祖父母が一定額を超える贈与をした場合、適用される税率が一般贈与に比べて低くなるという制度です。
例えば、祖父母が孫に2,000万円を贈与した場合、特例贈与による税率の適用により、贈与税の額を大幅に減少させられます。
基礎控除額110万円を引き(2,000 - 110=1,890万円)、特例贈与による税率(3,000万円以内は45%)を適用すると、特例贈与の控除は265万円。
特例贈与の贈与税は、(2,000万円 - 110万円)× 45% - 265万円=585.5万円 となります。
また、この制度を利用すれば、祖父母は孫の将来のためにより多くの資金を提供でき、孫は受け取った資金を教育や将来の資産形成にうまく活用できるでしょう。
出典:国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
2.「教育資金の一括贈与」を利用
教育資金の一括贈与は、祖父母が孫に対して教育資金を一括で贈与する際に、一定額まで贈与税が非課税になる制度です。
贈与される資金は、学費や教材費、留学費用など教育に関連するさまざまな費用に使用可能で、孫の高等教育や専門教育に必要な費用をサポートできます。
この制度の適用を受けるためには、贈与者と受贈者が教育資金管理契約を結ぶ必要があり、贈与された資金が教育費用に実際に使用されたことを証明する書類を提出しなければなりません。
出典:国税庁 No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税
3.「結婚・子育て資金の一括贈与」を利用
結婚・子育て資金の一括贈与は、祖父母が孫に対して結婚や子育てに必要な資金を一括で贈与する際に、一定額まで贈与税が非課税になる制度です。
この制度を利用すれば、結婚式や新居の準備、子どもの教育費用などに使用でき、孫の新生活のスタートや子育てのサポートに必要な資金提供ができます。
この制度の適用を受けるためには、贈与者と受贈者が結婚・子育て資金管理契約を結ぶ必要があり、贈与された資金が結婚や子育てに関連する費用に実際に使用されたことを証明する書類を提出しなければなりません。
出典:国税庁 No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税
「4.住宅取得資金贈与」を利用
住宅取得資金の贈与の特例は、祖父母から孫への住宅購入のための資金贈与に対して、一定の条件のもとで贈与税が非課税となる制度です。
この特例を利用すれば、祖父母は孫の新たな住まいの購入を支援でき、孫は新しい生活を始めるための重要な一歩を踏み出す際の経済的な負担を軽減できます。
住宅取得資金の贈与には、新築または中古の住宅の購入、土地の購入とその上に家を建てる費用、住宅ローンの返済など、住宅取得に関連する幅広い用途が含まれます。
この特例の適用を受けるためには、贈与された資金が住宅取得に実際に使用されたことの証明が必要です。
住宅取得は多くの家庭にとって大きな財政的負担となりますが、この特例の活用により、祖父母は孫の夢の実現を支援し、将来の安定した生活基盤構築の手助けができます。
出典:国税庁 No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
5.「相続時精算課税制度」を利用
相続時精算課税制度は、生前贈与と相続を組み合わせた税務上の制度であり、祖父母が孫に対して行う贈与について、贈与税の負担を軽減できます。
この制度を利用すると、贈与された財産が将来の相続財産として計算される際に、すでに贈与された財産に対して支払った贈与税が相続税から控除されます。
場合によっては、贈与を受けた孫の税負担が軽減されると同時に、祖父母は生前に財産を効果的に移転でき、資産の世代間移転もスムーズになります。
相続時精算課税制度の適用を受けるためには、贈与者と受贈者が特定の手続きを行い、贈与された財産を相続財産として適切に管理しましょう。
孫に相続させるときの注意点
孫に遺産を相続させるときには慎重な計画と配慮が必要となりますが、家族間のトラブルなど起こり得るデメリットがしばしば見落とされがちです。
ここでは、孫に遺産を相続させる際に起こりやすい、他の相続人とのトラブルや、相続税の2割加算などについて詳しく解説します。
他の相続人の相続分が減りトラブルになりやすい
孫に遺産を相続させる場合、特に贈与や遺言を用いると、他の法定相続人の相続分が減少する可能性があり、家族間での不和や相続トラブルが発生しやすくなります。
また相続は、法定相続分に基づくため、孫への贈与や遺言による遺産の移転は、遺留分侵害の問題を引き起こすこともあります。
遺留分は、特定の相続人が最低限受け取るべき遺産の割合を保障するものなので、孫への遺産移転を検討する際には、他の相続人の遺留分に配慮し、可能な限り事前に相続人全員で話し合い、合意を形成するように努めましょう。
相続トラブルを避けるためにも、第三者である専門家のアドバイスを仰ぎながら、適切な計画を立てるのが望ましいです。
相続税の「2割加算」に注意が必要
孫が相続する場合、一部の例外を除き、相続税額に2割が加算されるため、相続税の負担は重くなります。
この2割加算は、孫が直系尊属からの相続人であっても適用されるので、孫への相続計画を立てる際には、この加算税額を考慮しましょう。
ただし、代襲相続では、亡くなった親の代わりに孫が相続し、孫が法定相続人として扱われるため、2割加算はありません。
また、加算税額を軽減するためには、生前贈与や教育資金の一括贈与などの方法を検討するのも一つの手です。
ただし、これらの方法にはそれぞれ利用条件や非課税枠が設けられているため、事前にしっかりとした計画を立てるようにしましょう。
まとめ
本記事では、孫への遺産相続における4つの方法と相続税を軽減させる方法について紹介してきました。
遺言作成から生前贈与、養子縁組、代襲相続に至るまで、孫に財産を確実に渡すためには、十分に検討した上で選択しましょう。
また、教育資金の一括贈与や住宅取得資金贈与など、税負担を軽減する具体的な方法もありますので、贈与税の対策にお役立てください。
家族間のトラブルを避け、税負担を最小限に抑えるためにも、事前の計画と相続人全員との円滑なコミュニケーションが大切です。
相続や税務に関する専門家をお探しの際は、遠慮なくお問い合わせいただければ幸いです。
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