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贈与の計画をしている方は、贈与契約書について「必ず必要なものなのかな?」とお考えの方もいらっしゃるでしょう。
贈与契約書の必要性を感じている方でも「書き方や書式はある?」などとお悩みをお持ちなのではないかと思います。
この記事では、贈与を行うときの贈与契約書の必要性や書き方のポイント、贈与財産の種類別の注意点について解説します。
贈与契約書とは
贈与は「当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が承諾をすることによって、その効力を生ずる」と民法549条に定められています。これは当事者間の約束です。
生前贈与が成立するためには、贈与契約書は必ず必要というわけではなく、口約束でも契約したとみなされます。ただ、口約束だけでは不安が残ります。
民法550条には「書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りではない」とあります。書面を交わさない贈与契約は、すでに贈与された部分を除き途中で撤回できるというものです。
贈与契約書は、財産を贈与するときに作成する書類です。贈与契約書には、贈与の内容を記載します。贈与契約書があると、当事者はもちろん第三者や税務署の人が見たときにも贈与があったことを客観的に証明できます。
贈与契約書を作成しておくとさまざまなメリットがありますので、順をおって解説いたします。
贈与契約書が必要な理由4つ
まずは、贈与契約書が必要な理由を解説します。
贈与契約書が必要な理由4つ |
1.当事者間のトラブルを予防できる 2.親族間に起こるトラブルを予防できる 3.税務署の調査の対策になる 4.不動産の所有権移転登記がスムーズにできる |
1.当事者間のトラブルを予防できる
例えば、息子夫婦がマイホームの購入を検討しているときに、親から息子へ購入費用として500万円を贈与する約束をしていたとします。
口頭のみの約束でしたが、息子は「親からのお金を頭金に足して…」と、あてにして準備を進めていました。
購入する住宅も決まり契約をしようという段階になったときに、何かしらのきっかけで親と喧嘩になってしまい、「贈与の約束はなかったことにする!」と言われたらどうなるでしょう。
贈与契約書を作成していない場合、先ほど紹介した民法550条に定められている通り、親の発言が認めらます。息子夫婦は、頭金が不足するためにその住宅を購入できないかもしれません。
このようなトラブルはないに越したことはありませんが、回避するためには贈与契約の内容を記載した贈与契約書が必要です。
2.親族間に起こるトラブルを予防できる
贈与した人が亡くなると相続が発生します。遺言書がない場合は亡くなった贈与者の財産は、相続人の共有財産になるので、相続人全員で遺産分割協議を行い、「誰が、どの財産を、いくら受け取るのか」決めることになります。
遺産分割会議のときに、生前贈与を受けた相続人へ他の相続人から「贈与されたのではなく、財産を勝手に使い込んだのではないか」と疑いをかけられるケースがあります。また、生前贈与があったことを知っていても、「不公平だ」という主張があるかもしれません。
贈与契約書があれば、生前贈与の事実があったことを証明できます。また、贈与を受けた金額やその理由などが明らかにできるため、トラブルに発展することを避けられ、より公平な遺産分割が行えます。
3.税務署の調査の対策になる
相続税の税務調査を受けるのをきっかけに、贈与税についての調査が行わるケースがあります。
例えば、毎年100万円ずつ贈与税の基礎控除内の金額で、10年間贈与を繰り返し行っていたとします。1,000万円を一度に贈与すると贈与税がかかりますが、10年間に分けて贈与を行うと、贈与税はかかりません。
しかしこの場合、贈与する金額があらかじめ決まっていた定期贈与とみなされれば、一度に1,000万円を贈与されたとして贈与税を支払わなければなりません。
また、子や孫などの別の口座を作ってそこに贈与者の預金をしているだけの、名義預金であるとみなされれば、贈与であったとしても認められずその財産は相続税の課税対象になります。
どちらも贈与者がすでに亡くなっているので、どのような事実があったのか確認することはできません。
「贈与した」「受け取った」というお互いの合意のもとに贈与契約書を贈与の都度作成しておけば、贈与があったことが証明できるので税務調査の対策が可能です。
4.不動産の所有権移転登記がスムーズにできる
贈与によって不動産を受け継ぐことがあります。その場合は法務局で、贈与された不動産の「所有権移転登記」が必要です。
不動産移転登記の手続きの際には、贈与によって不動産を得たということを、贈与契約書で証明する必要があります。贈与契約の際に贈与契約書を作成しておくと、所有権移転登記をスムーズに行えます。
贈与契約書作成のための手順
贈与契約書を作成する際には、事前に贈与者(贈与する側)と受贈者(贈与を受ける側)の間で、契約する内容の認識が合致しているか確認しましょう。
確認事項は、「贈与する財産は何か(現金、株式、不動産、生命保険など)」「贈与する額はいくらか」「どういう方法で贈与するのか」などです。
そのうえで、贈与税やその他の税金が課されるのか、課されるなら税額はいくらになるか、贈与税に特例が適用できる可能性はあるか、特例の適用要件などについても確認が必要です。
贈与内容が確定したら、贈与契約を交わす日や贈与を実行する日についてもお互いが合意した内容となっているか、しっかり再確認しましょう。
贈与契約書の書き方のポイント4つ
贈与契約書の書き方についてまとめました。以下のポイントに気をつけましょう。
贈与契約書の書き方のポイント4つ |
1.贈与契約書に記載する項目 2.贈与契約書にお互いが捺印する 3.収入印紙が必要な場合がある 4.贈与契約書は双方で保管する |
1.贈与契約書に記載する項目
贈与契約書に記載する主な事項は次の6つです。
<贈与契約書に記載する主な事項>
2.贈与履行日(現金の場合は銀行振込する日)
3.贈与者の住所と氏名(誰が贈与するのか)
4.受贈者の住所と氏名(誰に贈与するのか)
5.贈与財産に関する情報(金額や不動産情報など)
6.贈与方法(振込先など)
贈与契約書には、贈与契約締結日や贈与履行日など日付を書きます。西暦か和暦かどちらを使うか迷うかもしれません。
法律的にはどちらでも間違いはありません。複数箇所書く場合は、両方を混在させず、どちらかにそろえて書きましょう。
贈与契約書のサンプルはこちらです。
贈与契約書は手書きでもパソコンソフトでも、どちらでも作成しやすい方法で構いません。
贈与契約書に決まった書式はありませんが、契約内容を特定できるように、先ほど紹介した6つの必要事項が記載されている必要があります。
万が一のトラブルを避ける意味で、贈与契約書をパソコンソフトで作成した場合でも日付と署名は手書きで行いましょう。
手書きで作成する場合には、改ざんを予防するために数字は大字(壱、弐、参など)を使用します。
2.贈与契約書にお互いが捺印する
合意した内容をもとに贈与契約書を2通作成します。2通とも当事者の署名と捺印をします。
2通が同じ内容であることを証明するために、2枚の書類に印影が残るように割印を押します。割印を押すことで、書類の改ざんやコピーを防げます。
贈与契約書に押す印鑑は、シャチハタ(スタンプタイプの印鑑)以外であれば、認印を使用しても実印を使用しても構いません。
当事者同士の合意があったことを証明し信頼性を持たせる意味で実印を使い、印鑑証明書を添付することをおすすめします。
3.収入印紙が必要な場合がある
贈与契約書は、贈与する財産の種類によっては収入印紙が必要な場合があります。現金や株式、生命保険などの場合には不要です。
不動産を贈与する場合は、不動産の贈与契約書が印紙税の課税対象となるため、必ず200円の収入印紙の貼り付けが双方の贈与契約書に必要です。
貼り付ける収入印紙の額は、不動産の評価額に関わらず200円と定められています。
4.贈与契約書は双方で保管する
作成した贈与契約書は、贈与者と受贈者が1通ずつ保管しましょう。紛失しないように保管しなくてはなりません。心配な場合は、公正証書にしてくこともよいと思います。
公正証書の原本は、法律で原則として20年と定められています。保存の必要があるときはその間、保管してもらえます。
また、贈与契約書を作成したといっても、それだけで贈与が証明できるわけではありません。
贈与があったことを証明するには、贈与契約書の作成とともに、「現金の場合は手渡しではなく銀行振込の記録を残す」「不動産や株式などの名義を変更する」など、実際の手続きが行われたことが明らかにしておきます。
未成年者と贈与契約を締結することはできる?
例えば祖父母が孫に贈与する場合です。未成年者とも贈与契約はできます。
ただし、未成年者は、一般的に社会経験が少なく、贈与に関する理解や判断能力が不十分なことが多いため、原則として単独では法律行為ができません。贈与契約を結ぶ際には親権者の同意が必要です。
令和4年4月1日から、民法上の成年年齢が20歳から18歳に引き下げになりました。令和4年4月1日以降の契約では、18歳以上であれば成年として贈与契約を結ぶことが可能です。
未成年者と贈与契約書を作成するときの注意点
未成年者と贈与契約書を作成するときには、離婚などで親権者が一人という場合を除き、両親の署名・捺印が必要です。
幼児などで、自分で署名ができない場合は、親権者が代わりに署名・捺印をし、その下に「親権者〇〇が代筆」と記載するとよいでしょう。
未成年に対して贈与された財産は、親権者が管理することになります。贈与税がかかる場合は贈与税の申告も行いましょう。
未成年者に生前贈与をする場合、受贈者が18歳になり成人するときに、贈与された財産の管理は、親権者から本人に移す必要があります。
本人に移す際、「贈与された財産は大金だから、成人したからといってもすぐに渡してしまって、きちんと管理ができるのだろうか」「いきなり18歳の子が大金を管理することになり、金銭感覚がおかしくなってしまわないだろうか」などといった心配があります。それらの点については、贈与契約の前に検討し対策を考えておきましょう。
「贈与財産を受け取っても浪費してしまうのではないか」そのようなリスクの対策としては、現金を贈与するのではなく、生命保険を活用して贈与する方法も検討できます。
現金を贈与するときに注意すること
現金を贈与する場合は、贈与財産を受け取った人が管理できる状態にすることが重要です。
内緒で子や孫の名義の預金口座を作り、そこに現金を振り込んでも贈与されたことを知らない場合は、正式に贈与が行われたことにはなりません。また、手渡しではなく銀行振込で行いましょう。
その際、贈与契約書を作成していたとしても、通帳やキャッシュカードを贈与者が管理し、受贈者が自由に使えない状況なら、名義預金とみなされる可能性がありますので注意しましょう。
また、長期間にわたって同じ時期に同じ金額を贈与していれば、定期贈与とみなされる可能性があります。毎年の契約締結日や贈与金額は異なるものにしておきましょう。
株式を贈与するときに注意すること
株式は、現金と同じように分割できるので贈与しやすいという特徴があります。また、早めの贈与を行うと配当を受贈者に受け取らせることができます。
メリットは多いのですが、例えば、贈与者が経営している会社の株式を将来の相続税対策として子に贈与したあと、子との関係性が悪くなると株式比率によっては経営権が子に移る可能性があります。
あるいは、贈与者に株式を贈与されても、受贈者が株式の扱い方を知らないため困るという場合には、株式ではなく贈与者が現金に換金して現金を贈与する方が、贈与者が助かる場合もあります。個別の事情を検討し、最も適した相続対策を検討しましょう。
不動産を贈与するときに注意すること
不動産(土地や建物)の生前贈与では、生前贈与を検討した方がよいケースと、相続を検討した方がよいケースがあります。
生前贈与を検討した方がよいケース
将来的に相続人によるトラブルが発生する可能性がある場合、認知症対策、不動産の評価額が上がることが見込まれる場合、など相続を検討した方がよいケース
相続財産の評価額が相続税の基礎控除内である場合、小規模宅地などの特例を使い相続時に節税効果を得たい場合、など
贈与による不動産の名義変更(所有権移転登記)をする場合は、登録免許税と不動産取得税を負担しなければなりません。
贈与を行うべきか相続を選ぶべきか、贈与と相続の特例制度をよく把握して決定しましょう。
生命保険を活用して贈与するときの注意点
生命保険を活用する場合に、贈与に適した生命保険は、以下の契約形態のものが挙げられます。
・受贈者を契約者、贈与者を被保険者、受贈者を保険金の受取人とする生命保険。受贈者が支払う保険料を毎年110万円以下として受贈者に贈与すると、受贈者は、保険料の負担なしに財産を受け取れる
メリットがある一方で、生命保険の運用実績によっては元本割れが生じる可能性があったり、長期間の契約によりインフレによる貨幣価値の下落リスクに対応しづらかったりするなど、注意点が考えられます。
贈与契約書を専門家に依頼するべき?
贈与契約書について、必要性や書き方、贈与財産の種類別の注意すべき点を解説しました。
生前贈与が成立するには、口約束でも契約したとみなされるため、贈与契約書は必ず必要というわけではありません。しかし、トラブルを避け贈与契約を確実にするために、贈与契約書の作成をおすすめします。
ただし、贈与契約書を作成しても、令和6年1月以降に行われる生前贈与は、活用する制度によっては、相続が開始する前7年分が相続税の課税対象になります。相続への取り組みとして生前贈与を始める場合は、早めに検討することが重要です。
生前贈与にはさまざまな方法があり、注意するべき点もいくつかあります。希望するかたちで贈与・相続を行いたいのであれば、専門知識を有する司法書士や弁護士などへの相談を検討しましょう。