不動産小口化商品は、少額から不動産投資を始められる魅力的な商品です。特に、所得税の節税に繋がる「減価償却」の仕組みを理解することは、賢い資産運用において非常に重要となります。
本記事では、不動産小口化商品の基礎知識から、減価償却の仕組み、そして商品種類ごとの減価償却の可否、さらには投資におけるメリット・デメリットまで解説していきます。
- 不動産小口化商品は、少額から不動産投資を始められ、プロによる管理で手間がかかりません。
- 商品には「匿名組合型」「任意組合型」「賃貸型」の3種類があり、それぞれ所有権の有無や収益の税務上の扱いに違いがあります。
- 任意組合型と賃貸型は、投資家が不動産所有者となるため減価償却が可能であり、不動産所得として計上することで節税効果が期待できます。
- 匿名組合型は、投資家が不動産を所有しないため減価償却はできません。分配金は雑所得として扱われます。
目次
不動産小口化商品とは?
不動産小口化商品(※「小口化」の読み方は「こぐちか」)とは、不特定多数の投資家が資金を出し合い、一つの不動産を共同購入する投資スキームを指します。購入した不動産から得られる家賃収入や売却益は、投資家の持ち分に応じて分配されます。
通常、不動産への単独投資には多額の資金が必要です。しかし、不動産小口化商品であれば、都心の高収益物件などへも少額から投資が可能です。
不動産小口化商品にはどのような種類がある?
不動産小口化商品は、契約形態や所有権の扱いの違いにより、「匿名組合型」「任意組合型」「賃貸型」の3つのタイプに分類されます。それぞれの特徴を理解することが、適切な商品選びに繋がります。
| 種類 | 期間 | 1口価格 | 不動産所有権 | 収益の所得区分 | 減価償却の可否 |
|---|---|---|---|---|---|
| 匿名組合型 | 短期可 | 1万~10万円程度の場合が多い | 事業者 | 雑所得 | できない |
| 任意組合型 | 基本長期 | 100万円以上の場合が多い | 投資家(共同) | 不動産所得 | できる |
| 賃貸型 | 基本長期 | 100万円前後の場合が多い | 投資家(持ち分) | 不動産所得 | できる |
それぞれについて詳しく解説するので見ていきましょう。
1.匿名組合型とは?
匿名組合型は、匿名組合の事業者に投資家が出資を行い、その事業者が不動産を保有・運用して収益を得て、その収益を分配金として投資家に配分する仕組みのことを指します。
投資家は不動産の所有権を持たず、事業者が得た収益の一部を分配金として受け取ります。税務上、この分配金は「雑所得」として扱われます。比較的少額(1万~10万円程度)から投資でき、短期間での運用も可能なため、不動産小口化商品への入り口として検討しやすいタイプです
2.任意組合型とは?
任意組合型は、投資家と事業者が共同で組合を組み、不動産を共同所有・運用する形態です。
投資家自身が不動産の所有者となるため、分配金は「不動産所得」として扱われます。評価額の算出には路線価や固定資産税評価額が用いられるため、現物不動産と同様の節税効果を期待できます。1口あたりの価格は100万円以上が一般的で、10年以上の長期運用に適しています。 ※個人は損益通算できません。
3.賃貸型とは?
賃貸型は、不動産の持ち分を投資家それぞれが所有し、不動産を管理する事業者と賃貸借契約を結ぶ形となります。
投資家は不動産の持ち分を所有するため、得られる賃貸収益や売却益は「不動産所得」として扱われます。事業者からの賃料を受け取る仕組みです。このタイプも基本的に長期運用となり、1口100万円前後が一般的です。 ※個人は損益通算できません。
不動産小口化商品の用途別種類とその特徴は?
続いて、不動産小口化商品を不動産の用途別に「住居用」「商業用(テナント)」「事務所用(オフィス)」「宿泊施設用(ホテルや旅館)」と4種類に分類し、それぞれについて知っておくべき点を説明してきます。
4種類それぞれがどのようなメリットやデメリットがあるかを知っておけば、不動産小口化商品を選ぶ際に検討をしやすくなります。
現物の不動産投資をしたことがある方は知っている内容かもしれませんが、不動産小口化商品を通じて初めて不動産投資に挑む方は、よく内容を確認してください。
1.住居用の特徴とは?
住居用の不動産の場合、家賃収入が安定しやすいというメリットがあります。
特に人口流入が活発な都市部では、住居用不動産に対するニーズが高くなっています。
一方、地方都市や人口減が顕著な地域では住居用不動産の空室率が高まっていくリスクが大きい傾向です。空室率が高まると家賃収入は減り、投資リターンが悪化してしまいます。
2.商業用(テナント)の特徴とは?
テナントを募集する商業用不動産の場合、住居用と比べると期待リターンが高めであることが一般的です。
また、設備の維持費やリフォーム費用が抑えられる点もメリットといえます。これは、設備や内装にかかる費用を基本的にテナント側が負担するケースが多いためです。
ただし注意点もあります。商業用不動産は一度空室が出ると、次の入居までに時間がかかる可能性が高く、空室期間が長期化しやすい傾向があります。
3.事務所(オフィス)用の特徴とは?
事務所用不動産の大きなメリットは、住居用や商業用と比べて立地条件の重要性が低い点です。
住居用は立地が悪ければ物件の魅力が下がり、商業用では客足に影響しますが、事務所用の場合はそこまで交通の利便性が問われません。また、一般的に賃料収入は住居用よりも高めに設定される傾向があります。
一方で、景気の影響を受けやすく、1社に大きな面積を貸している場合は、その企業が退去した際のダメージが大きいというデメリットもあります。加えて、建築コストが住居用よりも高くなりやすい点も留意しておくべきでしょう。
4.宿泊施設用(ホテルや旅館)の特徴とは?
宿泊施設用不動産は、観光需要が高まることで賃料収入や売却益の大幅な増加が見込める点が魅力です。
近年では訪日外国人の増加が続いており、宿泊業界には追い風が吹いています。今後のインバウンド観光の動向を見極めることは、宿泊施設用不動産への投資判断において非常に重要です。
ただし、宿泊業界は感染症の流行や景気変動などの影響を受けやすい側面があります。実際に新型コロナウイルスの流行時には、多くの宿泊施設が廃業・倒産に追い込まれました。
さらに、為替レートの変動も宿泊施設にとって大きな要因となります。円安が進めば外国人観光客にとって日本旅行が割安となり、宿泊需要が高まる傾向にありますが、逆に円高になるとその逆の影響を受けかねません。
減価償却とは?
減価償却(げんかしょうきゃく)とは、時間の経過とともに価値が減少する固定資産(建物や設備など)の取得費用を、その資産の使用可能期間(耐用年数)にわたって少しずつ経費として計上していく会計上の仕組みです。
なぜ減価償却は節税になる?
減価償却は、毎年の課税所得を効果的に減少させるため、結果として所得税や法人税の負担を軽減します。
1,000万円の減価償却資産を10年で償却する場合、毎年100万円ずつ経費として計上できます。もし、1年で全額を経費にすると、その年の所得は大きく減りますが、翌年以降は経費計上ができません。しかし、減価償却を行うことで、複数年にわたって所得から一定額を控除でき、結果的にトータルの税負担を抑える効果が期待できます。
例えば1年間の所得金額が500万円の人が、減価償却可能な4,000万円の固定資産を購入したとします。
もし減価償却せずに1年目で4,000万円を経費として計上する場合、1年目の所得金額は500万円から0円となりますが、2年目以降は経費として計上できません。
つまり4,000万円の固定資産の購入による所得金額の減額効果は500万円のみです。
一方、4,000万円を400万円ずつ10年かけて減価償却していくと1年目も400万円、2年目も400万円……。
というように毎年400万円の所得金額の減額効果が生じるため、トータルで所得金額を4,000万円減らすことができます。
減価償却ができる資産、できない資産は何?
時間の経過とともに価値が減少する資産は減価償却が可能です。一方で、時間の経過で価値が減少しない資産は対象外です。
減価償却資産は、主に「有形固定資産」と「無形固定資産」に分けられます。
減価償却ができる主な資産
- 有形固定資産: 建物、自動車、機械設備、電気設備など
- 無形固定資産: ソフトウェア、特許権、商標権など
減価償却ができない主な資産
- 土地: 時間の経過で価値が減少することはないため、減価償却の対象外です。
- 美術品、骨董品: 価値が時間の経過で減少しない、あるいはむしろ上昇する可能性があるため、減価償却の対象外です。
不動産小口化商品は減価償却できる?
減価償却の仕組みが理解できたところで、不動産小口化商品の種類ごとに減価償却が可能かを確認していきましょう。 ※個人は損益通算できません。
不動産小口化商品の主な種類としては「匿名組合型」「任意組合型」「賃貸型」の3つがあります。結論からいえば、匿名組合型では減価償却ができず任意組合型か賃貸型では減価償却が可能です。
| 種類 | 減価償却の可否 |
|---|---|
| 匿名組合型 | できない |
| 任意組合型 | できる |
| 賃貸型 | できる |
匿名組合型は減価償却できる?
匿名組合型では、減価償却ができません。
匿名組合型の場合、投資家は不動産の所有権を持たず、出資先の事業者が不動産を所有・運用します。投資家が得る分配金は税務上「雑所得」として扱われるため、所得税の計算上、減価償却費を計上することはできません。
任意組合型は減価償却できる?
任意組合型では、減価償却が可能です。
任意組合型では、投資家が不動産の共同所有者となります。そのため、不動産から得られる収益は「不動産所得」として扱われます。不動産所得では、不動産取得費用に含まれる建物部分の減価償却費を計上できます。
賃貸型は減価償却できる?
賃貸型では、減価償却が可能です。
賃貸型では、投資家が不動産の持ち分を個別に所有します。不動産を所有しているため、得られる賃料収入や売却益は「不動産所得」として扱われます。このため、任意組合型と同様に、建物部分の減価償却費を計上できます。
不動産小口化商品のメリットは?
少額からの投資、プロによる管理など、現物不動産投資にはない魅力があります。
1.遺産分割がしやすい
現物不動産は、物理的に分割が難しいため、相続時にトラブルに発展することが少なくありません。不動産小口化商品は、口数単位で保有できるため、複数の相続人がいる場合でも公平かつスムーズな財産分与が可能です。例えば、1口100万円の不動産小口化商品を10口保有していれば、2人の子どもに5口ずつ相続させるといった対応が容易です。
2.少額から高収益不動産に投資できる
通常、多額の資金が必要な都心の一等地の商業ビルやオフィスビルといった高収益不動産にも、少額から投資参加が可能です。これにより、個人ではアクセスが難しい優良物件からの恩恵を受けられます。
3.プロによる不動産管理
不動産の賃貸管理や修繕、税務処理などは、専門の運用会社が行います。これにより、投資家は不動産オーナーとしての手間や負担を大幅に軽減できます。
4.多様な投資対象から選択できる
居住用、商業用(テナント)、事務所用(オフィス)、宿泊施設用(ホテル・旅館)など、様々な用途の不動産を投資対象として選べます。これにより、自身の投資目標やリスク許容度に合わせてポートフォリオを組むことが可能です。
不動産小口化商品のデメリットは?
自己資金の必要性、中途解約の難しさ、流動性の低さなどが挙げられます。
1.自己資金が必要になることが多い
現物不動産投資では、物件を担保に金融機関から融資を受けてレバレッジを効かせた投資が可能です。しかし、不動産小口化商品は共同所有の形態となるため、個別の不動産を担保とした融資を受けにくい傾向にあります。そのため、基本的に自己資金での投資が中心となります。
2.中途解約できないケースが多い
多くの不動産小口化商品は、原則として投資期間中の途中解約ができません。解約可能な場合でも、買い取り価格が大幅に目減りしたり、売却までに時間がかかったりする可能性があります。
3.流動性が低い
市場に流通している口数が限られるため、自分の希望するタイミングで売却しにくい場合があります。また、買い手も限られるため、現金化に時間を要する可能性があります。
4.運用会社の倒産リスク
投資対象の不動産を運用している会社が倒産した場合、元本割れや分配金の停止など、投資元本に影響が出るリスクがあります。運用会社の信用性や財務状況を事前に確認することが重要です。
不動産小口化商品はどのような人におすすめ?
少額で不動産投資を始めたい方や不動産管理の手間を省きたい方におすすめです。
不動産小口化商品は、特定のニーズを持つ投資家にとって非常に有効な選択肢となります。
少額から不動産投資を始めたい方
数万円から数百万円といった比較的少額の資金で、高額な現物不動産に投資したいと考える方。
不動産管理の手間をかけたくない方
物件の管理や入居者対応、修繕といった手間をプロに任せたい方。
相続対策を検討している方
現金以外の資産で遺産分割をスムーズに行いたい方。
複数の不動産に分散投資したい方
少額投資の特性を活かし、複数の不動産小口化商品に投資することでリスク分散を図りたい方。
金融商品以外の投資先を検討している方
株式や債券とは異なる、実物資産への投資に関心がある方。
よくある質問(FAQ)
Q1. 不動産小口化商品で得た利益にはどのような税金がかかりますか?
匿名組合型では「雑所得」として、任意組合型や賃貸型では「不動産所得」として課税されます。所得の種類によって、利用できる控除や計算方法が異なるため、税理士などの専門家への相談をおすすめします。
Q2. 不動産小口化商品の投資期間はどのくらいですか?
商品によって異なりますが、匿名組合型は比較的短期(数ヶ月~数年)も可能である一方、任意組合型や賃貸型は長期(5年~10年以上)の契約期間が設定されていることが多いです。契約期間中は原則として解約できないため、事前に確認が必要です。
Q3. 元本保証はありますか?
不動産小口化商品には、原則として元本保証はありません。不動産価格の変動、賃料の下落、空室リスク、運用会社の経営破綻などにより、投資元本を下回る可能性があります。
まとめ
不動産小口化商品は、少額からの不動産投資、プロによる管理という複数のメリットを併せ持つ魅力的な金融商品です。特に「減価償却」による節税効果を期待するのであれば、任意組合型や賃貸型を選ぶことが重要です。これらのタイプは投資家が不動産を所有するため、不動産所得として減価償却費を計上できます。 ※個人は損益通算できません。
一方で、匿名組合型は所有権が事業者にあり、分配金は雑所得となるため減価償却はできません。
不動産小口化商品への投資を検討する際は、ご自身の投資目的やリスク許容度、資金計画に合わせて、各商品の特性を十分に理解した上で、最適な選択をすることが成功への鍵となります。

