
将来の相続税対策や、孫への愛情表現として、近年注目を浴びているのが「孫への生前贈与」です。
実は、年間110万円まで非課税で贈与できる制度があることをご存じでしょうか。
本記事では、孫への生前贈与を非課税でおこなえる制度や具体的なやり方、メリット、注意点についてわかりやすく解説します。
・相続税を節税したい(資産を生前に減らしておきたい)
・孫に教育資金や住宅資金などとしてまとまったお金を贈りたいが、贈与税の支払いをさせたくはない
・孫の将来のために何かしたい
という方は、ぜひ参考にしてください。
- 年間110万円までの贈与は非課税
- 教育資金は1,500万円まで非課税で贈与できる
- 結婚・子育て資金は1,000万円まで非課税で贈与できる
- 住宅取得資金は最大1,000万円まで非課税で贈与できる
孫への生前贈与を非課税になるケース

まずは、孫への生前贈与が非課税になるケースを解説していきます。
以下の2つのケースの場合、孫への生前贈与が非課税になります。
1.生活費や教育資金の援助は非課税になる
祖父母(扶養義務者)から孫に対する生活費や教育費など「通常必要と認められるもの」は、扶養義務者からの必要なものとして非課税となります。
贈与税の非課税財産
第二十一条の三 次に掲げる財産の価額は、贈与税の課税価格に算入しない。
二 扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの
出典:e-GOV 法令検索
扶養義務者は国税庁の「扶養義務者」の意義で定義されているとおり、「直系血族及び兄弟姉妹並びに家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった三親等内の親族をいう」ため、祖父母は孫の扶養義務者として認められています。
ただし、受け取ったお金を生活費や教育費として使わず、貯蓄や投資に回していた場合は、後々税務署によるから調査と課税がおこなわれることがあるので注意しましょう。
2.生活費等を除いた額が110万円以下なら非課税になる
上記「1」の生活費等を除いた贈与額があっても、年間110万円以下であれば「暦年贈与」として非課税となります。
暦年贈与とは、「贈与税は基礎控除額である年間110万円までは非課税になる」制度を利用しておこなう贈与方法です。
毎年、受贈者(贈与をもらう人。この場合は孫)1人は、110万円まで贈与を非課税で受けられることになります。
この場合、受贈者は贈与税の申告も不要です。
金銭でなくても、贈与時の資産価値が110万円以下であれば、土地建物や物品も対象になります。
暦年課税(暦年贈与)
贈与税は、一人の人が1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の合計額から基礎控除額の110万円を差し引いた残りの額に対してかかります。
したがって、1年間に贈与を受けた財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりません(この場合、贈与税の申告は不要です)。
出典:国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合
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贈与税の非課税制度を使い孫に生前贈与する方法

教育資金や住宅取得資金など、特定の目的のためにおこなう贈与には、特例贈与という非課税制度があります。
以下の制度を利用することで、孫に非課税で生前贈与をおこなうことが可能です。
1.住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税の特例
住宅取得等資金に関する贈与税の非課税特例は、祖父母や親から住宅の新築、購入、または増改築のための資金を贈与された場合に適用されます。
この制度により、一定の条件を満たすと最大1,000万円までの贈与が非課税となります。
非課税限度額
省エネ等住宅:最大1,000万円
それ以外の住宅:最大500万円
またこの制度は、令和6年1月1日から令和8年12月31日まで適用されます。
特に、省エネ住宅などの優遇措置を受けた住宅では、非課税限度額が引き上げられるため、非常に大きなメリットがあります。
贈与を受ける孫は、贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上で、かつ合計所得金額が2,000万円以下である必要があります。
また、贈与を受けた資金は、住宅の購入に関連する費用として使わなければならず、使途が明確であることが求められます。
さらに、贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅に居住する必要があり、これを守らない場合は非課税特例が適用されません。
この特例は、住宅取得のための資金を一括で贈与する形で利用できるため、孫が家を購入する際に大きな助けとなります。
贈与者と受贈者がしっかりと計画を立て、税務署への申告を怠らないようにすることが重要です。
【特例の利用条件】
・受贈者が18歳以上であること(贈与を受けた年の1月1日時点)。
・受贈者の合計所得金額が2,000万円以下であること。
・贈与を受けた資金が住宅の新築、購入、または増改築のために使われること。
・新築または取得した住宅の床面積が40㎡以上240㎡以下で、半分以上が受贈者の居住用であること。
・贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅に居住すること。
【注意点】
・贈与された資金は、住宅取得に関連する用途でなければ非課税特例が適用されない。
・申告をしないと特例が適用されないため、適切に申告することが必要。
・住宅の種類や省エネ性能に応じて非課税額が異なるため、事前に確認すること。
参考:国税庁
No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
令和6年度税制改正大綱 令和5年12月22日 閣議決定〈相続税・贈与税〉
2.教育資金の一括贈与の非課税制度
先ほど、110万円以下ならば、孫への贈与が非課税になることをお伝えしました。
しかし、それ以上の金額を孫に生前贈与したいと思う方もいらっしゃることでしょう。
そうした方におすすめなのが教育資金の一括贈与の非課税制度です。
教育資金の一括贈与に関する非課税制度は、祖父母や親が孫に対して、教育に必要な資金を一括で贈与する際に適用される特例です。
この制度では、1人の孫に対して最大1,500万円までの贈与が非課税となります。
教育資金は、学費や教材費、学外活動費など、教育に関連する支出に限定されるため、贈与を受ける孫の教育に必要な資金を一度に贈与できる点が特徴です。
ただし、この非課税特例を利用するためには、贈与者と受贈者が金融機関で教育資金専用口座を開設し、資金の使途を証明するために領収書の提出が求められます。
さらに、贈与を受けた孫が30歳に達した時点で、契約は終了しますが、在学中であれば契約延長が可能です。
この制度は、教育資金の負担を軽減し、孫の将来の学問やキャリアを支援するために大変有効な手段です。
特に学費が高額になりがちな現代の教育環境において、親や祖父母からの支援は大きな助けとなります。
また、この特例を適用することで、相続税対策にもつながるため、計画的に利用することが求められます。
【特例の利用条件】
・受贈者が30歳未満であること。
・贈与者と受贈者が金融機関で教育資金専用口座を開設し、贈与金額が教育資金として使われること。
・贈与された資金が、学費や教材費、学外活動費などの教育目的に使われること。
・受贈者が30歳に達した時点で契約が終了するが、在学中であれば契約延長が可能。
【注意点】
・資金の使途が教育に関するものでない場合、非課税措置が適用されない。
・教育資金の領収書や支出証明書を保管する必要がある。
・受贈者が30歳に達する前に契約が終了する点に注意(在学中は延長可能)。
・申告が必要で、申告を怠ると非課税特例が適用されない。
参考:国税庁 No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税
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3.結婚、子育て資金の一括贈与の非課税制度
結婚・子育て資金の一括贈与に関する非課税制度は、祖父母や親から孫に対して、結婚や子育てに必要な資金を一括で贈与する際に利用できる特例です。
この制度では、1人の孫に対して最大1,000万円までの贈与が非課税となります。
ただし、結婚に関連する資金は最大300万円、子育てに関連する資金は500万円までが非課税の範囲となります。
この特例を利用するためには、贈与者と受贈者が金融機関で専用口座を開設し、贈与された資金が結婚や子育てに関連する支出に使われることを証明する必要があります。
領収書を提出することが求められ、資金が適切に使われていない場合は非課税措置が適用されなくなります。
また、受贈者の合計所得金額が1,000万円を超える場合、この特例を受けることはできません。
結婚や子育ては人生の大きなイベントであり、資金的な支援があることで負担を軽減でき、若い世代の生活基盤を支えることができます。
この非課税制度を活用することで、将来の相続税の軽減にもつながるため、計画的に利用することが重要です。
【特例の利用条件】
・受贈者が18歳以上50歳未満であること。
・贈与者と受贈者が金融機関で専用口座を開設し、贈与金額が結婚または子育て資金に使われること。
・結婚資金の贈与は最大300万円まで、子育て資金の贈与は最大500万円まで非課税。
・贈与された資金は、結婚や子育てに関連する支出であることが証明される必要がある。
【注意点】
・資金の使途が結婚や子育てに関係ない場合、非課税措置は適用されない。
・受贈者の合計所得金額が1,000万円を超える場合、この特例は適用されない。
・領収書などの支出証明書を必ず保管する必要がある。
・申告が必要で、申告を怠ると非課税特例が適用されない。
参考:国税庁 No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税
4.相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は、60歳以上の親や祖父母が、18歳以上の子や孫に対して贈与をおこなう際に利用できる制度です。
この制度の特徴は、贈与を受けた時点では贈与税が課税されず、相続が発生した際にその贈与額を相続財産に加算して相続税を計算するという点です。
累計2,500万円までは非課税となり、これを超える部分には一律20%の贈与税が課税されます。
この制度は、相続時まで税金の支払いを先送りできるため、贈与者にとっては資産を相続時にまとめて精算することが可能となります。
ただし、一度この制度を選択すると、暦年課税に戻すことはできないため、慎重に選択する必要があります。
また、相続時精算課税を選ぶと、贈与額が相続財産に加算されるため、相続税の負担が重くなる可能性もあります。
この制度は、相続税対策として有効であり、大きな金額の贈与を考える場合に特に役立ちますが、贈与を受けた財産が相続税の計算に影響する点に留意する必要があります。
【制度の利用条件】
・贈与者が60歳以上であること(父母または祖父母)。
・受贈者が18歳以上であること。
・累計2,500万円までの贈与が非課税で、超過部分に対して一律20%の贈与税が課される。
・相続時に贈与額が相続財産に加算され、相続税が計算される。
・一度選択すると、暦年課税には戻れない。
【注意点】
・累計2,500万円を超えた部分には一律20%の贈与税が課税されるため、注意が必要。
・相続が発生した際、贈与した財産が相続財産に加算されるため、相続税の負担が増える可能性がある。
・相続時精算課税を選択した場合、暦年課税には戻せないため、慎重に選択する必要がある。
・贈与時には贈与税が課税されないが、相続時にその贈与額を加算して相続税が課される点に留意する必要がある。
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孫に生前贈与をするメリット

孫への生前贈与には、複数のメリットがあります。
ここでは、孫に生前贈与をすることで得られるメリットについて解説します。
1.相続税の節税対策になる
孫への生前贈与は、相続税の節税対策として非常に有効です。
通常、相続が発生すると、相続人は相続税を支払う必要がありますが、孫に直接贈与することで、相続税の課税回数を減らすことができます。
たとえば、祖父母から孫に財産を贈与する場合、孫は法定相続人ではないため、贈与された財産は相続税の対象外となります。
また、年間110万円までの贈与は非課税となるため、長期的に計画的に贈与をおこなうことで、相続財産を減少させ、結果的に相続税の負担を軽減することが可能です。
このように、早期からの生前贈与は、相続税対策として非常に効果的な手段となります。
2.贈与の自由度が高まる
孫への生前贈与は、贈与者が「誰に」「いつ」「いくら」を自由に決定できるため、非常に柔軟性があります。
これにより、孫のライフステージやニーズに応じた資金援助が可能となります。
たとえば、教育資金や結婚資金、住宅取得資金など、特定の目的に合わせて贈与することができます。
また、贈与者が生きている間に贈与をおこなうことで、孫の成長を見守りながら、必要なタイミングで資金を提供することができるため、贈与の効果を最大限に引き出すことができます。
このように、贈与の自由度が高まることで、より計画的かつ効果的な資産移転が実現します。
3.金銭感覚の教育になる
孫に生前贈与をおこなうことは、金銭感覚を育む良い機会となります。
贈与を通じて、孫はお金の価値や使い方を学ぶことができ、将来的に賢いお金の使い手になる可能性が高まります。
たとえば、教育資金や生活費を贈与する際に、どのように使うかを一緒に考えることで、計画的な支出の重要性を教えることができます。
また、贈与契約書を作成することで、贈与の意義や責任を理解させることもできます。
このように、金銭感覚の教育は、孫の将来において非常に重要なスキルとなり、経済的な自立を促す助けとなります。
4.学業や生活の支援になる
孫への生前贈与は、学業や生活の支援に直結します。教育資金を贈与することで、孫が希望する学校に通うための資金を提供でき、学びの機会を広げることができます。
また、生活費や医療費など、日常生活に必要な資金を援助することで、孫の生活の質を向上させることができます。
特に、教育資金の一括贈与制度を利用すれば、最大1,500万円まで非課税で贈与できるため、将来の学費負担を軽減することが可能です。
このように、孫の学業や生活を支援することで、彼らの成長を助けることができるのです。
5.相続トラブルの回避になる
孫に生前贈与をおこなうことで、相続トラブルを未然に防ぐことができます。
相続が発生すると、遺産分割に関する意見の相違や不満が生じることが多く、これが原因で家族間の対立が起こることがあります。
しかし、生前贈与を通じて、財産を事前に分配することで、相続時のトラブルを回避することができます。
また、贈与の際に贈与契約書を作成することで、贈与の意図や内容を明確にし、後々の誤解を防ぐことができます。
このように、計画的な生前贈与は、相続に関するトラブルを減少させ、家族の円満な関係を保つために役立ちます。
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孫に生前贈与を非課税でおこなう場合の8つの注意点

孫に贈与をおこない、それに対して贈与税がかからない(受贈者である孫が支払わなくてよい)ための方法を説明してきました。
ここでは、孫に贈与をおこなう際の注意点についてまとめて解説します。
1.扶養義務として贈与する場合は証拠・記録を残し使い切るよう伝える
扶養義務者である祖父母が、孫の生活費や教育費を援助する目的で贈与をおこなう場合は、贈与税が非課税となる場合があります。
しかし、税務署から贈与と認められない可能性もあるため注意が必要です。
贈与の事実を証明できるよう、通帳への入金記録や領収書などを保管し、贈与したお金は使い切るように孫に伝えましょう。
2.贈与契約書を作成する
トラブルを防ぐために、非課税枠内であっても念のため贈与契約書を作成することをおすすめします。
たとえば、祖父母が孫名義の銀行口座にだまって毎年110万円を振り込んでいた場合、名義預金として問題があるとみなされるおそれがあります。
贈与者と受贈者が生前贈与であると認めている証拠・証明として、贈与契約書を作成しておくと安心です。
3.毎年同じ日、同じ額の贈与にしない
毎年同じ日、同じ額の贈与は、贈与税の課税対象となる可能性があります。
計画的贈与と疑われないためにも記録をつけ、同日同額の振込などは避けましょう。
4.特別受益と認められるケースではないか確認する
生前贈与は、相続時に特別受益として扱われることがあります。
特別受益とは、被相続人から遺贈や生前贈与を受けている(=他の相続人と比較して明らかに不公平な特別な利益を受けている)相続人がいる場合の、不公平と認められる特別な利益を指します。
ただし、通常、孫は祖父母の法定相続人ではありません。
そのため、普通は当てはまらないのですが、孫の親(祖父母にとっての子)が亡くなって孫が代襲相続人になった場合など、いくつか「孫が相続人になるケース」が存在します。
当てはまっていないか、確認しておくとよいでしょう。
参考:相続税法(基礎編)令和5年度版 6 特別受益者の相続分)
5.教育資金など特例贈与は金融機関に対応を確認する
教育資金などの特例贈与は、金融機関によって取り扱いが異なる場合があります。
事前に金融機関に確認しておきましょう。
6.特例贈与の非課税枠を使い残さない
前述のとおり、特例贈与では受贈者である孫の年齢制限が設けられているものもあります。
贈与の名目に沿った使用で制限年齢までに使い切れなかった場合は、残った額に贈与税がかかるため注意が必要です。
7.暦年贈与を利用した場合は贈与者死亡3年前(~7年前)までは相続税対象になる
相続人への暦年贈与は、贈与者死亡の3年前までの贈与は相続税の対象となります。
孫が相続人に該当するケースはいくつかあるため、確認しましょう。
8.専門家のアドバイスを受けることも検討する
これまで見てきたとおり、孫への生前贈与には複雑な制度や条件があります。
孫のために非課税で生前贈与をおこなっていたつもりが、必要な条件を見落としていたり、理解が誤っていたりして、結果的に受贈者である孫が贈与税を支払うことになれば、祖父母としてはやりきれないでしょう。
孫への生前贈与を考える場合は、一度生前贈与に詳しい税理士や弁護士などの専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
まとめ

本記事では、孫への生前贈与のメリット、孫への生前贈与を非課税にする方法、注意点について解説しました。
孫への生前贈与は、自分が生きているうちに可愛い孫へ資産を贈与できる、相続税の節税につながるなど、さまざまなメリットがあります。
しかし適切な手続きをおこなわないと、孫に贈与税が課されてしまうおそれもあります。
生前贈与を検討する際には税理士や弁護士などの専門家に相談し、最適な方法を選択することが大切です。
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