不動産物件を購入すると相続対策になるという情報を見聞きしたことはないでしょうか。
結論からいうと、不動産物件の購入には相続税の節税効果があるため相続対策として有効です。
それでは、どれくらいの節税効果があって、どんな物件を選ぶのが最も効果的なのでしょうか。
相続対策としての不動産購入を検討している方に向けて、知っておくべき情報を網羅していきたいと思います。
- 不動産物件を購入すると相続税対策になる理由
- 現金で相続した場合と不動産で相続した場合の相続税額の違い
- 相続対策として購入する物件の選び方
目次
不動産物件を購入すると相続税対策になる4つの理由
そもそも、不動産物件を購入することがなぜ相続税対策になるのでしょうか。その理由について4つの項目で解説します。
最初に相続税の仕組みを理解していただいたうえで、相続税額の計算方法や評価額の考え方について解説を進めていきます。
1. 相続税の仕組みと相続財産の評価
相続税は、財産を所有している人が亡くなり、相続人にその財産を相続した際に発生する税金です。
相続する財産(遺産)の規模によって税率は異なります。以下は税率の一覧です。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
ご覧のように、相続財産が大きくなるほど税率が高くなっていきます。
そして、相続税には基礎控除があります。3,000万円と、法定相続人1人あたり600万円です。
たとえば課税対象の相続財産が1億円で相続人が1人の場合、相続税額は以下のように計算します。
((1億円 - 3,600万円) × 30%) - 700万円 = 1,220万円
最初に相続財産から基礎控除分を差引き、その金額に税率をかけて、最後に控除額を差し引きます。
相続財産は1億円ですが、基礎控除によって6,400万円になり、税率は30%になります。
その税率で算出した金額から、控除額の700万円を差引いています。
最初にこの計算方法をマスターしたうえで、その計算の根拠となる「相続財産」の算出方法について解説を進めましょう。
2. 現金よりも不動産物件のほうが評価額は低くなる
先ほど紹介した相続税の計算方法は、相続財産の評価額に対するものです。相続財産がいくらあるのかではなく、いくらと評価された金額なのかがポイントです。
相続財産を評価するには一定のルールがあり、そのルールを知ることで相続財産の評価額を低くすることができます。相続財産の評価額が低くなると、相続税も少なくなります。
相続財産が現金の場合は、相続する金額がそのまま評価額になります。これが不動産になると、同じ金額分の価値があっても評価額は少なくなります。
土地は実勢価格に対して約8割、家屋(建物)は5割から7割程度になります。
これだけでも現金資産と比べるとかなりの減額になるため、「不動産を購入すると相続税の節税になる」というのは事実です。
3.賃貸物件ならば不動産物件ならさらに評価額が低くなる
所有している不動産が賃貸物件である場合、さらに相続時の評価額は低くなります。
自己所有の不動産ではあるものの賃貸として貸し出している場合は、入居者にも一定の権利が発生するため、100%所有者の自由になるわけではありません。
その分の評価を減ずるという考え方で、賃貸物件を相続する場合は評価額が低くなるのです。
地域ごとに借地権割合が定められており、賃貸物件は相続評価時に借地権割合分を差し引くことができます。この分が評価減となり、相続税の圧縮につながります。
4.小規模宅地等の特例に該当すると土地部分の評価を大幅に圧縮できる
不動産物件を相続する場合、知っておきたいのが小規模宅地等の特例です。
面積が330平方メ-トル(約100坪)までの宅地については評価額を80%減額できる特例です。
仮に1億円の評価額となっている土地であってもこの特例が適用されると評価額は2,000万円になります。
該当すれば節税効果がとても高いので、相続を控えている方は知っておきたい制度の1つです。
不動産物件を購入するとこんなに相続税が変わる
それでは「1億円」の相続財産について、以下の3つのパターンで相続税額のシミュレーションをしてみたいと思います。
先ほどの解説では下の項目ほど相続税が少なくなるわけですが、どの程度差があるのかを試算してみます。
なお、法定相続人は1人とします。つまり、基礎控除額は3,600万円です。
現金でそのまま1億円を相続した場合の相続税は1,220万円
現金は額面がそのまま評価額になるので、相続財産は1億円となります。1億円からこの場合の基礎控除額を差し引くと課税対象額は6,400万円です。6,400万円の相続税率は30%、控除額は700万円です。
((1億円 - 3,600万円) × 30%) - 700万円 = 1,220万円
現金のまま1億円を相続すると、相続税は1,220万円です。
1億円で不動産物件を購入して相続した場合の相続税は440万円
次に、1億円で不動産を購入し、それを相続した場合です。物件はマンションで、土地は4,000万円、建物は6,000万円の価値を想定します。
敷地面積は40平方メートルとします。土地の評価額は80%、建物の評価額は60%と想定しました。なお、この試算では小規模宅地等の特例などの制度は考慮しないものとします。
まず、課税対象の財産について、評価額を整理しましょう。
・土地部分:4,000万円 × 80% = 3,200万円
・建物部分:6,000万円 × 60% = 3,600万円
これにより、課税対象の財産評価額は6,800万円です。この時点で、1億円と比べるとかなり少なくなっています。
((6,800万円 - 3,600万円) × 20%) - 200万円 = 440万円
基礎控除を差し引くと評価額は3,200万円になるため、相続税の税率は20%です。20%をかけたうえで200万円を差引いて、税額は440万円となりました。
現金で相続する場合と比べると、3分の1程度にまで圧縮されたことになります。
1億円で賃貸物件を購入して相続した場合の相続税は約167万円
それでは次に、評価額がさらに低くなる賃貸物件を購入したケースを試算してみましょう。
この場合、借地権割合は70%、借家権割合は一律の30%、賃貸割合は100%とします。
先ほど同条件で土地部分と建物を部分の評価額を算出しました。以下のとおりです。
・土地部分:4,000万円 × 80% = 3,200万円
・建物部分:6,000万円 × 60% = 3,600万円
ここから借地権割合と借家権割合の分を差し引いていきます。それぞれ、以下のように計算します。
・土地部分:3,200万円 × 79% = 2,528万円
(1 - 借地権割合70% × 借家権割合30% × 賃貸割合100% = 79%)
・建物部分:3.600万円 × 70% = 2,520円万円
(1 - 借家権割合30% = 70%)
それぞれ評価額を減じたうえで、相続税額を計算してみましょう。
((5,048万円 - 3,600万円) × 15%) - 50万円 = 167万2,000円
賃貸物件を購入した場合、相続税額は7分の1程度にまで圧縮されました。
不動産物件、そのなかでも賃貸物件を購入することが相続対策として有効であることがおわかりいただけたと思います。
ここでは小規模宅地等の特例などの制度を考慮しませんでしたが、こうした特例を適用することで相続財産の評価額が基礎控除額を下回れば、相続税の申告が不要になり、税額がゼロになる可能性もあります。
相続対策で賃貸物件を購入すると得られるメリット
ここまでの解説をお読みになって、相続対策には賃貸物件を購入するのが最も有利になることがおわかりいただけたと思います。
それを踏まえて、賃貸物件を購入することで得られる相続対策以外のメリットにも目を向けていきたいと思います。
1. 不動産収入が期待できる
収益力のある賃貸物件を所有していると、不動産収入が得られます。たとえ目的が相続対策であっても、収入が発生することは変わりません。
不動産収入は事実上の不労所得なので、本業とは別の収入源を持つことで今の生活を豊かにしたり、老後の生活を安定させたりする効果も期待できます。
2. 不動産経営が赤字だとしても節税効果がある
相続対策目的で不動産物件を購入した場合、不動産経営が赤字であってもメリットが全くないわけではありません。
本業など他の収入がある場合、不動産経営の赤字分は損益通算ができるため、赤字の分だけ本業収入を圧縮して節税効果が得られます。
相続対策も一種の節税目的といえますが、所得税の節税を目的として不動産物件を購入する人もいます。
相続対策として購入する物件の選び方
不動産物件の購入目的が相続対策である場合、その効果が最も高い物件を選びたいところです。
どんな物件を選ぶと、最も高い効果が得られるのでしょうか。
売却しやすい物件
相続対策として不動産物件を購入する場合、もしかすると物件を相続した人が将来売却するかもしれません。そのときのことを考えると、売却しやすい物件を選ぶのが得策です。
それ以外にも売却しやすい物件は一定の人気がある物件ともいえるため、空室リスクが低く家賃収入も安定します。
また、一定の人気が見込める物件は購入時に融資を利用しやすいなどのメリットもあるため、選ぶべきは「売却しやすい物件」です。
相続税の評価額と実勢価格の差が大きい物件
相続財産としての評価額は実勢価格を反映しているわけではないため、両者には差があります。
この差が大きいほど相続税を少なくできるため、両者の差が大きい物件は相続対策向きです。
一般的に大都市圏の物件は実勢価格と相続税評価額の差が大きくなるため、都市部の人気物件がおすすめです。
利便性が高く、整形地(いびつな形になっていない土地など)の物件であることも選ぶ際のポイントです。
賃貸物件の場合、借地権割合も不動産の評価額に大きく影響を及ぼします。借地権割合が高いほど節税効果が高くなるわけですが、都市部の物件は総じて借地権割合が高めです。
収益性の高い物件
先ほど、相続対策目的であっても収益物件があれば不動産収入が期待できると述べました。
これは意外に重要なことで、収益性の高い物件であれば初期投資額を回収して「元を取る」までの期間も短いでしょうし、相続した人にとってもメリットとなります。
相続対策が目的だからといって何でもよいわけではありません。収益物件を購入する以上、収益性はしっかりと精査しましょう。
ワンルームマンション
アパートやマンションなどさまざまな種類の物件があるなかで、おすすめはワンルームマンションです。
ワンルームマンションは特に単身世帯が増えている大都市圏でニーズが高く、また流動性が高いため売却しやすいこともメリットです。
たとえば1億円の財産があれば2,000万円の物件を5戸購入するといったように財産の規模に応じて購入戸数を調整しやすく、また相続人が複数いる場合には分割もしやすくなります。
ワンルームマンションは小規模物件なので敷地部分が小規模宅地等の特例に該当することが大半なので、相続税の節税効果が高いことも見逃せません。
相続対策での物件購入で注意するべきこと5つ
相続対策を目的として不動産物件を購入する際に、留意するべき注意点もあります。
ここでは5つの注意点について解説します。
1. 被相続人が自分の意思で購入していること
被相続人(財産を所有して亡くなった人)が自分で購入した物件でなければ、相続財産とは見なされません。
認知症などで判断能力がない状態であったり、極端に高齢になったりしてから購入した場合は、相続対策のために相続人が購入したと見なされ、税務署から否認される恐れがあります。
不動産物件購入のための契約書が代筆であったり、契約書が代理契約だったりする場合なども否認される可能性が高く、注意が必要です。
2.相続後3年以内の売却は要注意
相続対策のために購入した不動産物件だけに、相続を終えたらすぐに売却したいこともあるでしょう。しかし、相続後3年以内は売却しないのが無難です。
というのも、明らかに相続対策で不動産物件を購入したことがわかると、節税のための一連の行動が無効になってしまうことがあるからです。
物件を売却した際にも譲渡所得税などが発生することがあります。
その申告から過去3年以内に相続があったことがわかると、「相続対策で不動産物件を購入した」と見なされ、節税が無効になってしまう恐れがあります。
3.物件の形態によっては「争族」トラブルになる
遺産相続は時折、「争族」と揶揄されるほどトラブルが多発しています。
相続人が複数いる場合、現金であれば分割も容易ですが不動産物件だと簡単ではありません。
単一の不動産物件を分割する際に代償分割といって1人が不動産を相続し、残りの相続人には金銭など別の財産を支払う方法があります。
しかしこれもしっかりと話し合って利害を調整しなければ「争族」に発展しがちです。
先ほど述べたようにワンルームマンションであれば1戸単位で分割できるため、相続人の人数と同じ戸数を購入し、分割するといったことも可能になります。
4.収益性が低いと維持の負担が大きくなる
先ほど、相続税の申告後3年間は少なくとも不動産物件を所有しておくのが無難であると述べました。この期間をうまく維持していくためには、収益性がカギになります。
それでは3年間維持できるだけの収益性があれば大丈夫なのかというと、そうともいえません。
というのも、被相続人が亡くなる日が事前にわかっているわけではありませんし、税務署からの否認を回避するためにも相続よりかなり前に不動産物件を購入し、維持しておく必要があるからです。
こうした一連の所有期間を考えると、相続対策だけが目的であっても少なくとも4~5年程度は所有する可能性が高く、これだけの期間無理なく維持できる資金計画や物件選びが重要です。
5. 相続税の納税資金まで使ってしまわないこと
相続税は原則として金銭による一括納付と定められています。納税をするのは相続人なので、相続人はきたるべき納税のために必要な現金を確保しておく必要があります。
相続対策のメリットを大きくしたいあまりに手元に現金が残らないほど不動産物件を購入してしまうと、いざ相続となったときに納税するお金が足りなくなります。
相続税は相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内に納付しなければならないため、急にお金を用意しようとしても時間に余裕はありません。
現金以外の方法で相続税を納付する方法はありますが、一定の不利益をともなうことが多く、おすすめはできません。
相続対策にばかり関心が向いてしまって肝心の納税ができない事態にならないよう、ご注意ください。
まとめ
「不動産物件を購入すると相続税を少なくできる」というおぼろげな情報の真偽を確認するために当記事をお読みになった方は多いと思います。
不動産物件を購入することが相続対策になることは事実であり、節税効果はとても大きいです。
しかし、だからといってこの方法が万能というわけではなく、デメリットや注意点もあります。
相続税の仕組みをしっかり理解し、なぜ不動産物件を購入すると節税になるのかをマスターしたうえで、慎重に進めるようにしましょう。