不動産投資に興味を持つ人のなかには、「不動産特定共同事業法(不特法)」という言葉を耳にしたことがある人もいるかもしれません。
この法律は、複数の投資家が出資して不動産の取引に参加し、その収益を分配する「不動産特定共同事業」について定めたものです。
当記事では、不動産特定共同事業法についての概要や法改正による変更内容などをわかりやすく解説します。
- 不動産特定共同事業法が成立した理由とその仕組み
- 知っておきたい法改正のポイント
- 不動産特定共同事業者が扱う商品の仕組みと特徴
不動産特定共同事業法(不特法)とは
不動産特定共同事業法(不特法)の概要、施行の背景、法律が目指す目的について解説します。
1.不動産特定共同事業法|健全な運営と投資家の利益保護を目的とした法律
不動産特定共同事業とは、共同事業として不動産の売買や賃貸をおこない、そこから得られた収益を投資家に分配する事業のことをいいます。
その不動産特定共同事業の健全な運営と投資家の利益保護を目的とした法律が「不動産特定共同事業法(略称は不特法/FTK法)」になります。1995年4月1日に施行されました。
不動産クラウドファンディング(不動産小口化商品における匿名組合型・任意組合型・賃貸型など)はこの法律に基づいて事業をおこなわなければなりません。
・事業をおこなうには国土交通大臣の許可が必要
またこの事業をおこなうには、国土交通大臣の許可を得なければ、不動産特定共同事業を営むことができません。
事業者は、投資家に対して、事業計画、収益予測、リスク等に関する情報を十分に開示する必要があります。
また投資家からの出資金を他の財産と区分して倒産等のリスクを被らないよう管理する必要があります。これを倒産隔離といいます。
不動産特定共同事業法は、施行以降も時代や社会の要望に合わせ、不動産特定共同事業がより普及するよう順次法改正※を重ねています。
※2013年=平成25年、2017年=平成29年、2019年=平成31年に法改正
2. 不動産特定共同事業法(不特法)施行の目的と理由
国土交通省は以下の理由から、不動産特定共同事業法を制定し施行するとしています。
出資を募って不動産を売買・賃貸等し、その収益を分配する事業を行う事業者について、許可等の制度を実施し、業務の適正な運営の確保と投資家の利益の保護を図ることを目的
出典:国土交通省 不動産特定共同事業(FTK)法の概要
不特法がまだ無かった1980年代頃(バブル期)に、不動産を小口化した商品の販売が増えました。
当時は不動産小口化商品を規制する法律がなかったため、経営基盤の弱い中小規模の事業者も多数あったようです。
しかしバブル崩壊し規模の小さな事業者の多くが倒産すると、結果的に出資していた投資家が大きな被害を受けることになりました。
この経緯を経て、不動産小口化商品そのものや取り扱う事業者への法規制、投資家を保護するための法律として生まれたのが「不動産特定共同事業法」です。
この法律が制定・施行されたことで、健全な事業運営が可能であると国土交通大臣または都道府県知事に認められ、許可を得た事業主だけが販売や運営をおこなえます。
不特法によって、投資家は安心して不動産小口化商品に出資ができるようになりました。
【表1】不動産特定共同事業者の種別
種別 | 定義 | 必要な資本金 |
---|---|---|
第1号事業者 | 投資家との間で不動産特定共同事業契約を締結しており、当該契約に基づき運営し、生じる収益の分配を直接おこなう事業者 | 1億円 |
第2号事業者 | 不動産特定共同事業契約の締結を代理または媒介しておこなう事業者(第4号事業・適格特例投資家限定事業の対象を除く) | 1,000 万円 |
第3号事業者 | 不動産特定共同事業契約に基づき、特例事業者からの委託を受けて運営し、不動産取引業務をおこなう事業者 | 5,000万円 |
第4号事業者 | 特例事業者が当事者である不動産特定共同事業契約の締結を、特例事業者の代理としておこなう、または媒介をおこなう事業者 | 1,000万円 |
【表2】不動産特定共同事業者になるための主な認可要件
認可要件 | 解説 |
---|---|
① 資本金 | 出資額は、各事業者ごとに必要な金額を満たしていなければならない 第1号事業者:1億円 第2号事業者:1,000万円 第3号事業者:5,000万円 第4号事業者:1,000万円 |
② 宅建業の免許 | 宅地建物取引業者の免許を受けていなければならない |
③ 良好な財産的基礎、校正かつ適確に事業を遂行できる人的構成 | 不動産特定共同事業を適切におこなえるに足る財産的基礎と人的構成を兼ね備えていなければならない |
④ 基準を満たす契約約款(一般投資家を対象とする場合のみ) | 不動産特定共同事業契約約款の内容は、一般投資家を対象とするものの場合は基準を満たす必要がある |
⑤ 事務所ごとの業務管理者配置(不特事業3年以上、実務講習、登録証明事業(ARESマスター、ビル経営管理士、不動産コンサルティングマスター)) | 事務所ごとに、「業務管理者」を配置していなければならない ※業務管理者=宅地建物取引士、かつ以下のいずれかに該当する人物 ・ 不動産特定共同事業の業務に3年以上の実務経験を有する者 ・ 実務講習を受けた者 ・ 登録証明事業に携わる者(ARESマスター=不動産証券化協会認定マスター/ビル経営管理士/不動産コンサルティングマスター) |
平成29年に改正施行された「小規模不動産特定共同事業者(登録制)」では、「主な要件の違い」について「投資家一人あたりの出資額及び投資家からの出資総額がそれぞれ原則100万円、1億円を超えないこと※」とされています。
※小規模第1号事業者:1000万円、小規模第2号事業者:1000万円
不動産特定共同事業法の法改正のポイント
不特法は施行からこれまでに3度、改正を重ねています。ここでは簡単に改正のポイントと背景について解説します。
1. 2013年の改正ポイント|「特例事業(倒産隔離型スキーム)」の登場
2013年(平成25年)の不特法改正では、特に「倒産隔離型スキーム(特例事業)」が導入された点が大きいといえます。
日本には耐震性の劣る建築物が多数存在しているため、耐震化は必須です。
また建築物の耐震化のほか、地方の老朽施設の再生や介護施設の整備などに民間資金の導入を促進することで、地域経済の活性化を期待できます。
地域における優良不動産の供給が起こることで、不動産取引が地域においても活性化し、景気回復にも効果が見込めると考えられました。
しかし地方の物件や物件の再生においては、手続きに手間やコストがかかり大規模改修に制限がかかる既存の証券化スキームでは対応が難しいケースが多くなります。
さらに、当時の不動産特定共同事業は他の事業から倒産隔離されていなかったため、プロの投資家は請け負う事業者の倒産をおそれ、投資を忌避する傾向にありました。
このように、当時の不動産特定共同事業法では不動産特定共同事業のスキームのメリットが十分に活かせない状況にありました。
・SPCを主体とする仕組が追加
そこで法改正では新たに「適格特例投資家限定事業」が創設され、SPC(特定目的会社:不動産を証券化するなど資金を流動化することを目的とした会社)を主体とする仕組が追加されました。
SPCは届出制のため、許可を得た事業者(図ではデベロッパー)だけが不動産特定共同事業を行えた時代よりもハードルが下がります。
不動産特定共同事業者はSPCから業務委託を受けて不動産の取引や管理などをおこないます。
また投資家はSPCへ投資をおこなうことになるので、仮に事業者が倒産した場合でもその負債などを負うことはなくなります。
懸念が解消され、地方における不動産取引の活発化や雇用の誘発効果も期待されるようになりました。一方、税制面や制度面ではなおも課題が残りました。
「特別目的会社(SPC)が営む不動産特定共同事業において取得する不動産にかかわる不動産流通税(登録免許税・不動産取得税)の軽減」が平成25年に案として出されていますが、これらも含め後の改正につながっていきます。
参考:国土交通省 不動産特定共同事業法施行規則の一部改正について
2. 2017年の改正ポイント|中小規模事業者の参入の易化とクラウドファンディングへの環境整備
2017年(平成29年)の不特法改正では、おもに以下の改正がおこなわれました。
・1. 小規模不動産特定共同事業の創設による登録更新制度(5年)への変更と中小規模の事業者参入ハードルの低下
これまでの不動産特定共同事業には許可制度が設けられており、一部の事業主にしか運営することのできない事業になっていました。
その改善策として2017年の改正で創設されたのが「小規模不動産特定共同事業」です。
1995年(平成6年)に最初に施行された不動産特定共同事業法では、第1号事業者※としての認可が必要であり、その要件として「宅地建物取引業者」の免許が必須でした。
※投資家との間で不動産特定共同事業契約を締結し、当該契約に基づいておこなわれる不動産取引によって生じる収益・利益の分配をおこなう事業者。
小規模不動産特定共同事業が創設されたことで資本金や出資金などの要件が緩和され、許可制度ではなく登録更新制度(5年)に変更となり、地方の中小規模の事業者が参入できるようになりました。
・2. クラウドファンディングに向けた環境整備
資金調達の新たな手法としてすでに発展していたインターネットを活用したクラウドファンディングについて、不動産領域においてもより利便性を高めるため、以下の改正がなされました。
・ インターネットを通じて資金を集める仕組みを扱う不動産特定共同事業者が必要とする規定の整備
・ 契約締結前の書面などをインターネット上での手続きでもおこなえるようにする規定の整備
クラウドファンディングとは、事業者の運営する事業に対し、出資金(投資家からの投資)をインターネットで集める仕組みです。
現在は不動産だけでなく、さまざまな領域でおこなわれており、スキームとして確立されています。
法改正が行われる前 、2017年以前の不動産業界では、そもそも取引のための契約をインターネットで交わすことはできませんでした。
取引には必ず現物の「書面」を交付する必要があり、インターネット上で全ての手続きを進めて完了させることは困難だったのです。
これが法改正により、インターネットを活用したオンライン取引が可能になりました。
「契約の成立前および成立時に交付される書面」と「財産管理状況報告書」の2種類について、事業者と出資者双方が承諾しており、一定の要件を満たしていればオンライン上で完結できます。
ほかにも投資家保護のための規定が定められています。この法整備が詐欺などに投資家が巻き込まれるケースへの対策となったのです。
不動産クラウドファンディングはこの後さらに発展し、2019年の改正へつながっていきます。
3. 2019年の改正ポイント|不動産クラウドファンディングの発展と投資家保護の体制整備
2019年(平成31年)の改正では、不動産クラウドファンディングのより一層の利活用促進を目指し、不動産特定共同事業について以下の5つの施策を盛り込んでいます。
1. 「不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドライン」(以下「電子取引業務ガイドライン」といいます)の策定
出典:国土交通省 不動産クラウドファンディング 規制の明確化等により使いやすく~不動産クラウドファンディングに係るガイドラインの策定等~
2. 不動産特定共同事業法施行規則(以下「規則」といいます)の改正
3. 不動産特定共同事業への新設法人の参入要件の見直し
4. 不動産流通税の特例措置の延長・拡充
5. 特例事業者[2]の宅地建物取引業保証協会への加入解禁
参考:国土交通省 別紙1
いずれも事業者にとってのメリットが高いほか、投資家の安全の保護や利便性を高めています。
参考:国土交通省 不動産特定共同事業(FTK)の利活用促進ハンドブック
不動産特定共同事業とは|仕組みと概要
ここであらためて、不動産特定共同事業法による「不動産特定共同事業」について簡単に解説します。
不動産特定共同事業者が扱う商品(不動産小口化商品)には、以下の3つがあります。
※不動産小口化商品とは、不動産を1口数万円程度から1,000万円程度に「小口化」して販売される商品です。
1. 匿名組合型の特徴|1口あたりの出資額が低い
匿名組合型では、出資者は事業者へ金銭を出資するだけのことが一般的です。事業者の運用によって生じた利益は、出資者の持分割合に応じて分配されます。
特徴として、任意組合型や賃貸型よりも1口あたりの出資額が低く、商品によっては数万円など少額からの投資が可能です。また短期運用タイプが多く比較的流動性が高くなっています。
これらの特徴から、不動産投資に興味があるけれど多額の資金は準備できないという人にとっても、参入のハードルが低くなっています。
2. 任意組合型の特徴|不動産事業にある程度かかわる
投資家が組合員となった組合が不動産を購入、共同で事業をおこないます。その利益を組合員に対し、持分に応じて分配する形態です。
出資者はその不動産の所有者とみなされます※。出資者は匿名組合型と比較すると不動産事業にある程度関わることになります。
※名義があるかどうかは金銭出資型と現物出資型で異なる
不動産小口化商品ですが、法律上は不動産を所有者とみなされるため、不動産所得税や登記費用、取得費など税金や費用がかかります。
同時に現物不動産と同様、相続税の節税効果があります。
3. 賃貸型の特徴|事業者が賃貸経営をおこなう
複数の投資家が対象不動産をそれぞれの出資額に応じた持分で購入し取得、事業者と賃貸借契約を結び、事業者が賃貸経営をおこなう仕組みです。
任意組合型と似ている点が多く、長期間運用で安定収入が期待できます。なお賃貸型は流通量がかなり少なく購入できる機会は限られます。
【関連記事】
100万円からできる不動産小口化商品とは?仕組み・メリット・リスクを解説
まとめ
この記事では、不動産特定共同事業法について、制定の背景と経緯、法改正ごとのポイント、不動産特定共同事業法による不動産特定共同事業について解説しました。
不動産特定共同事業法は、複数の投資家から資金を募り、不動産の売買や賃貸をおこない、得られた収益を投資家に分配する仕組みを定めた法律です。
投資家を守るために、また新たな事業者が参入しやすくなるように改正を重ねてきました。
現在は不動産クラウドファンディングがスムーズにインターネットを活用して行われるようになるなど、その発展は続いています。
この法律で扱われる不動産特定共同事業(不動産小口化商品)は、少額から投資できることや、安定的な収益を得られる可能性があります。
魅力的な点も多い反面、元本損失のリスクや空室リスクなど、注意すべき点も存在します。出資をおこなう際は法律への理解も深めたうえで信頼できる事業者を選ぶことがポイントです。